米上院国土安全保障・政府活動委員会の常設調査小委員会は18日、航空宇宙大手「ボーイング」の安全対策に関する公聴会を開いた。今年1月に米西部オレゴン州で、離陸直後の旅客機737MAXの窓など機体の一部が吹き飛ぶ事故が発生。2018~19年に続発した737MAXの墜落事故の教訓が生かされず、「安全を軽視している」との内部告発が現役社員からも相次いでおり、巨大メーカーへの不信感が高まっている。
「事故で愛する人を亡くした方々に直接謝りたい。ボーイングにいる限り、安全に集中的に取り組むことを約束します」。公聴会に呼ばれた同社のカルフーン最高経営責任者(CEO)は冒頭、後方の傍聴席にいた18~19年の墜落事故の遺族に語りかけた。事故は「離陸時の失速防止システム(の誤作動)によるもので、ボーイングに責任がある」と改めて認めた。
出席議員からは同社の安全対策を疑問視する声が相次いだ。20年1月に就任したカルフーン氏は「対策をとり、進歩してきた」と強調したが、議員らは「(不正に関する)内部告発者に報復的な嫌がらせをしているとの訴えがある。本当に変わる気があるのか」「再び重大な事故が起きたのに、どうやって安全性を保証するのか」と追及。カルフーン氏が「内部告発への報復の事例」を認める場面もあった。1月の事故などを受けて、カルフーン氏は3月に「年末に退任する」と発表したが、議員からは「なぜ、まだ辞めていないのか」という声も上がった。
同委員会に寄せられた内部告発からは、ボーイングの「安全軽視」の根深さが垣間見える。公聴会前日の17日、品質管理を担う同社の従業員が「737MAXの製造工場で、損傷や仕様不適合が判明した部品を適正に記録・保管せず、数百個の不適合部品を紛失した」と実名で告発した。こうした部品が機体製造に用いられた恐れもあるという。また23年6月に米連邦航空局(FAA)が工場を立ち入り検査した際、「適正に保管されていなかった部品を別の場所に隠すよう上司に指示された」とも訴えた。
委員会には他にも、「生産を急ぐよう圧力があり、別の機体に使う部品や未検査の部品を使った」「不適合部品の紛失をFAAに報告すべきだと上司に訴えたが拒否された」「専門部署による品質検査を省略していた」といった告発が寄せられている。
米メディアによると、司法省も5月、18年と19年の墜落事故の刑事責任を猶予するのと引き換えに合意した再発防止策について「法令順守の仕組みが不十分で、違法行為を防止する倫理面の取り組みもできていない」と指摘した。司法省は、1月に機体の一部が吹き飛んだ事故の捜査も行っている。
ボーイングは航空機業界で欧州大手エアバスと並ぶ2大メーカーで、製造過程での不正の影響は全世界に及ぶ。軍用機生産や宇宙事業でもトップクラスだが、業界での独占的な地位が「慢心」を招いたとの見方も出ている。【ワシントン秋山信一】
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