イスラエル軍の空爆で負傷したサナアさん(左)と家族=パレスチナ自治区ガザ地区中部デルバラーのアルアクサ殉教者病院で2024年6月10日、アシュラフ・ソラーニ撮影

 イスラエル軍は8日、パレスチナ自治区ガザ地区中部のヌセイラット難民キャンプで、人質奪還作戦を行い、イスラム組織ハマスが拘束していた4人の救出に成功した。だが、その裏では多くのパレスチナ人が攻撃にさらされ、命を落とした。ガザ当局によると、死者は274人。現場で何が起きたのか。毎日新聞の現地助手がヌセイラットに入った。

 「パレスチナ人の命は、こんなにも価値がないのか」。積み上がった大量のがれきを前に、ムハンマドさん(25)は嘆いた。

 8日午前11時ごろ。自宅にいたムハンマドさんは、突如、激しい銃声を聞いた。外に出ると、普段は見かけない1台のトラックがあり、近くのアパートに二つのはしごがかけられていた。その場にいたのは、ハマス戦闘員の制服を着た男。だが目が合うと、銃を発砲された。それで男が、変装した「イスラエル特殊部隊」の兵士だと分かった。

 急いで家族に避難を呼びかけたが、すぐに爆発音が鳴り響き、イスラエル軍の戦闘機が、周囲の家を無差別に空爆し始めた。ムハンマドさんは路地裏に逃げ込んだが、恐怖で「息もできなかった」。

 攻撃がやんだのは約1時間後。通りに出てみると、多くの遺体がばらばらになって飛び散り、胸や腹部などを負傷した人が助けを求めていた。だが、がれきが散乱し、救急車が入る場所すらない。隣人が死んでいくのを見つめることしかできなかった。「イスラエル軍は270人以上のパレスチナ人の命と引き換えに4人の人質を救出した。虐殺を前に、国際機関はどこで何をしているのか」

パレスチナ自治区ガザ地区

 住民の証言からは、イスラエル軍が周囲の住民も含めて「攻撃対象」にしていたことが分かる。ヌセイラットで約30年間暮らすウンム・ムハンマドさん(48)は「逃げようにも、四方八方から爆撃があり、どこにも行けなかった」と語る。

 今回の軍事作戦について、エジプトなどアラブ諸国はイスラエルを非難する声明を出した。ただ、ウンム・ムハンマドさんは「何の役にも立たない」と切り捨てる。さらに、イスラエルとハマスの休戦交渉にも怒りをあらわにした。「一方が承諾しても、もう一方は拒否する。その繰り返し。誰も私たちの意見を聞いてくれない」

 国際社会は双方に強く停戦を求めているが、イスラエル軍は今もハマスの「壊滅」を掲げ、戦線を拡大する。「イスラエルには服従しない。戦闘員たちが私たちの土地を守るだろう」。ウンム・ムハンマドさんはそう言った後、助手に強く訴えた。「これ以上、避難民が増えないようにハマスも妥協してほしい。虐殺を止めてほしい」【エルサレム松岡大地】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。