地元の若者に高度な教育を提供し、地域の発展に貢献することは大学の中心的な機能 Ryan C. Hermens/Lexington Herald-Leader/TNS/ABACA/REUTERS
<地元出身の学生に支援金を支給したり、卒業後に県内で就職した学生の奨学金返済を支援したりしている自治体も>
地方から都市への人口流出は、大学等への進学時に起きる。これを食い止める対策は、地元における大学教育機会を充実させ、高校卒業後も居残ってもらうことだ。他県から若者を呼び寄せることにもなるが、卒業後に県外に出て行ってしまう可能性が高いため、できれば地元出身者に多く入ってきてほしい。これが関係者の本音だ。
大学の機能は大きく①研究、②教育、③社会サービスに分かれるが、時代とともに③の重要性が高まっている。地元の若者に高度な教育を提供し、地域の発展に貢献することは、その中心に位置する。
これがどれほど実現されているかを見る指標の1つに、大学入学者の自県出身者割合がある。県内の大学に入った者のうち、地元出身者が何%いるかだ。筆者の郷里の鹿児島県を例にすると、2023年春に県内の大学に入学したのは3644人。うち県内の高校出身者は2178人。よって自県出身者割合は59.8%となる。およそ6割だ。
同じ数値を47都道府県別に算出し、高い順に並べると<表1>のようになる。
自県出身者の割合が半分を超えるのは15県で、沖縄や北海道では7割を超える。地理的な要因が大きいだろうが、学生の主体は地元出身者といっていい。その一方で、値が3割にも満たない県もある。滋賀や鳥取では、学生の8割が他県出身者だ。
教育内容がユニークである、学費が安い国公立大学の比重が高い、というような事情により、他県からこぞって学生が来るのかもしれない。だが国立大学はともかく、住民の税金で運営される公立大学の場合、学生の多くが他県出身者で占められるのはいかがなものか、という声もある。
公立大学の関係者は特に、学生の地元出身者割合に関心を持っているはずだ。<表2>は、公立大学入学者の自県出身者割合を計算したものだ。公立大学がある43県の数値を高い順に並べている。
公立大学の学生の地元出身者割合は高く、20の県で50%を超える。学費を安くするなど、優遇策が取られているためだ。東京は35.6%と低い部類だが、この状況を問題視したためか、家計支持者が都内在住の学生の授業料を無償にする方針を打ち出している。インパクトのある政策だ。
地元出身者割合が最も低いのは鳥取で、23.4%しかない。公立鳥取環境大学では、何とか地元からの進学を増やそうと、県内出身の学生に支援金を支給している。秋田県立の名門・国際教養大学も、学生の多くが県外出身者で、卒業後も県外に出て行ってしまう。大学としては、県内に就職した学生の奨学金返済を支援している。
県外に出て行ってしまっても、「関係人口」として何らかの形で地域の発展に貢献してくれるなら有難い。県内に就職し、定住してくれるともっといい。こうした卒業後の状況のデータも、地方の大学の役割を評価・改善するにあたって必要不可欠だ。
<資料:文科省『学校基本調査』(2023年度)>
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