2022年の第1回パレードに参加したアダムズ市長(左)と中国総領事の黄 COURTESY OF THE OFFICE OF THE MAYOR OF NEW YORK

<2022年から毎年5月に開催されているアジア・太平洋系住民のためのパレード。「全ての人を歓迎」とする一方で、参加を許されない組織も多い>

アメリカの5月は、アジア・太平洋諸島系住民(AAPI)の伝統と文化をたたえる月だ。ニューヨークでも2022年から、アジア系のためのパレードが開かれている。

だが本誌が独自入手した文書によれば、このパレードを企画したのは、米政府に外国のエージェント(代理人)として登録されている企業のCEOだった。

この事実から、中国がアメリカ、特にニューヨークで影響力を拡大させる工作を仕掛けている疑いが浮上する。

過去にはエリック・アダムズ市長をはじめとするニューヨークの政治家が、中国共産党とつながりがある団体のメンバーから献金を受けていたことが分かっている。

今年のニューヨークのAAPIパレードは、5月19日にマンハッタンの6番街で行われた。全てのアジア系住民を歓迎すると、パレードは宣言した。

だが本誌が入手した文書によれば、主催者は政治的・宗教的に物議を醸す可能性がある団体を対象外としている。中国指導部に批判的な人々は、それが自分たちのことだと知っている。

チベット系、台湾系、香港系、そして中国政府を批判する人々は、このパレードがどれだけアジア系を代表しているのかと疑っている。彼らはパレードに招待されたことがなく、参加を申請しても認められない。

香港系住民の団体「ウィ・ザ・ホンコンナーズ」の創設者フランシス・ホイ(許穎婷)も、その1人だ。

彼女はパレードへの参加を申し込んだが、2週間待たされた末に受け取ったのは追加情報の提出要請だった。「私たちの申請を断る理由を探すために時間稼ぎをしていたことは明らかだ」と、ホイは言う。

本誌が米情報公開法の下で請求した総計数百ページに及ぶメールによれば、ニューヨークのAAPIパレードは中国語メディア「星島日報」のCEOロビン・ムイ(梅建國)が企画した。

同社は外国代理人登録法の下、米司法省から登録を命じられている。チャイナタウンで旧正月イベントを主催するスティーブン・ティン(田士銳)が率いる団体「ベター・チャイナタウンUSA」も協力した。

ムイは本誌の取材に対し、パレードの企画は長年にわたって何度も申請してきたが、アダムズが市長に就任してようやく認められたと語った。

「ほかの民族グループは毎年パレードをやっているのに、なぜアジア系だけはないのかと、市に訴えていた」と、ムイは言う。「このパレードは中国系だけでなく、アジア系全てのパレードだ」

アダムズはこれまでの3回のパレード全てに参加し、在ニューヨーク中国総領事の黄屏(ホアン・ピン)と肩を並べて行進した。今年のパレードには黄のほか、アジア・太平洋諸国の外交官らが参加している。

果たしてアダムズは、パレードを企画したのが外国代理人登録法の下で登録された企業のCEOだったことを知っていたのか。本誌はニューヨーク市長室にこの点を問い合わせたが直接の返答はなく、広報担当者から次のようなメールが届いた。

「アジア・太平洋諸島系住民が全米で2番目に多い都市のトップとして、アダムズ市長はこの都市の豊かな文化に貢献するAAPI市民を祝福しています。私たちはニューヨーク市の多様なコミュニティーを体現する全ての文化をたたえます」

ムイは星島日報の親会社である星島新聞集団(本社・香港)が、外国のエージェントとして登録を強いられたのは不公平だと主張する。

「この新聞社で43年間働いてきたが、米政府とは何の問題もない」と、ムイは言う。だが21年に、親会社に新たな投資家が加わった。「米政府は彼が共産主義の中国出身だという理由で、当社に登録を義務付けた。選択の余地はなかった」

「全てを歓迎する」という嘘

ムイによれば、新たな投資家は深圳を拠点とする不動産企業の佳兆業集団の会長で、星島新聞集団の共同会長でもある郭英成(クオ・インチョン)だ。

彼と娘の郭曉婷(クオ・シアオティン)は、21年に星島新聞集団の株式28%超を取得。郭曉婷は親会社の共同CEOであると同時に、星島日報のアメリカ業務を統括している。

1年後には郭英成も郭曉婷も、保有株式の半分を香港の実業家カーソン・チョイ(蔡加赞)に売却したという。

同社の公式サイトや中国のメディアによれば、取締役7人のうち少なくとも5人は、中国共産党が進める影響力工作の「統一戦線」に関与する政治機関や社会組織に属している。

共同会長となったチョイは、中国人民政治協商会議のメンバー。取締役会の共同CEOであるジャーナリストの柴静(チャイ・チン)は、江蘇省人民政治協商会議のメンバー。そして郭英成は、統一戦線の組織である香港潮州商会の創設議長だ。

在ニューヨーク中国総領事館は公式サイトで公開している昨年のパレード報告書の中で、黄屏が人々に「団結を示し、憎しみや人種差別に抵抗し、尊重と友情、包括性と愛を共に推進してより良い未来を迎えるために立ち上がるよう呼びかけた」と書いている。

ベター・チャイナタウンUSAが発行した第3回パレードの参加申請用紙には、「AAPI文化遺産継承伝統月間を私たちと共に祝う全ての人を歓迎します!」と書かれている。

しかし本誌が調べたこの団体の総計400ページ近いメールや文書から見つかった記録には、「安全上の理由から、参加対象は政治的・宗教的に論争の火種にならない組織とする」と記されていた。

これらの文書には第1回のパレードに、韓国や日本、バングラデシュ、フィリピンなどアジア諸国の外交官が招待されたことが記されている。

だが1つだけ、重要な団体のメンバーが招かれていなかった。中国が自国領土だと主張する台湾の事実上の大使館、台北駐米経済文化代表処の外交官だ。

チベット系学生団体「自由チベットのための学生たち」の事務局長ペマ・ドマは「中国共産党はAAPIについて影響力のある役割を担おうとしている」と指摘。

彼女は今年のパレード前の取材に、参加しない意向を示していた。「アメリカで中国共産党支持者がチベット系や香港系の住民に暴力的な攻撃を行うのをこの目で見てきただけに、身の危険さえ感じる」と、ドマは語った。

20年6月に香港で国家安全維持法が施行されたことを受けて香港を逃れてきたフランシス・ホイは、「これは中国政府が私たちのコミュニティーを支配し、外国で政策課題を推進するのに便利な状況をつくるために行っているプロパガンダの一環だ」と主張した。

首都ワシントンを拠点に活動するフリーランスの研究者で、かつて中国国営メディアに勤務していたシャノン・バンサンは「文化的な多様性を祝うパレードのはずなのに、中国政府の方針に反対する団体が排除されている」と批判する。

「これは中国共産党とその支持者や協力者が、アメリカの各コミュニティーで議論を支配・形成するために行っているのと同じやり方だ」と、バンサンは言う。「彼らの目的は中国共産党に批判的な声を抑え込み、そのほかの全ての人との結び付きを強化することにある」

2022年に初開催されたAAPIパレードの様子

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