敗北の責任を問われる可能性も出てきたラマポーザ大統領 ALET PRETORIUSーREUTERS
<5月末の総選挙で単独過半数を維持できなかった与党・アフリカ民族会議(ANC)。「誰とでも連立を組む用意がある」と語るが、野党との足並みは揃わない>
まずは予想どおりの展開だった。5月末の南アフリカ総選挙で、与党・アフリカ民族会議(ANC)は単独過半数を維持できなかった。全人種参加型の選挙が始まった1994年以来、初めてのことだ。
屈辱的な事態だが、前大統領ジェイコブ・ズマが半年前に立ち上げた新党・民族の槍(MK)に黒人票を食われた結果と言えよう。
ANCの得票率は公式発表で40.2%(前回2019年は57.5%)、獲得議席数は159(同230)にとどまり、国民議会(定数400)の過半数を初めて割り込んだ。
第2党は白人系で中道右派の民主同盟(DA)で、得票率21.8%(87議席)。ズマ新党のMKは14.6%(58議席)、やはりANC分派の経済自由の戦士(EFF)は9.5%(39議席)だった。
ANCのフィキレ・ムバルラ幹事長は6月2日の会見で、「確かに痛手だが、負けたわけではない」と主張し、今後は誰とでも連立を組む用意があると語った。
では、いかなる連立か。最も単純なのは第2党のDAと組むことだが、白人系のDAと組むことにはANC内部の反発が強い。一方のDA側も、雇用における黒人優遇措置の継続や公的医療保険の導入は受け入れ難い。
閣外協力で少数政権か
第4党で左派のEFFは、DAを少数派(白人)の味方と決め付けている。党首のジュリアス・マレマに言わせれば、もしもDAと連立を組めば南アフリカは「白人至上主義の天下」となり、ANCは「白人帝国主義の政策を推進する傀儡政権」に成り下がる。
ただし現実のDAは黒人や有色人種の一部からも支持されており、現に西ケープ州やその州都ケープタウンでは第1党として政権を担っている。またANCとの連立には前向きだが、MKやEFFの政権参加には拒否反応を示す。
そうなると、考えられるのはANCとDA、そしてクワズールー・ナタール州を地盤とするインカタ自由党(IFP)の連立だ。
なおEFFが政権に加われば中国やロシアの影響力が強まる可能性が高く、アメリカ政府は難色を示している。同党は主要産業の国営化や白人所有地の没収も主張しているからだ。
またMKは連立協議の前提として現職シリル・ラマポーザ大統領の辞任を要求しているが、ANCがこれに応じる可能性は低い。
南アフリカでは過去に、地方レベルでは連立政権が樹立された例がある。例えばヨハネスブルクやダーバンなどの大都市だ。しかしいずれも連立与党間の足並みがそろわず、失敗に終わっている。
現地紙デイリー・マーベリックが報じたANCの内部文書によると、ANCはDAおよびIFPと閣外協力の約束を取り付けた上で単独政権を樹立する道も探っている。
いずれにせよ、現職ラマポーザが大統領でいられる日は長くないだろう。過去に2期10年を務め上げた黒人大統領はいない。ネルソン・マンデラは再選を望まなかった。
後継のターボ・ムベキと、その次のズマは任期途中で辞任に追い込まれた。ANCの歴史的敗北を招いた男にも、辞任圧力が高まるのは必至だ。
From Foreign Policy Magazine
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