演説するハンガリーの新興野党「ティサ」党首マジャル氏=ブダペストで5月30日、ロイター

 ハンガリーで、2月に活動開始したばかりの新人政治家ペテル・マジャル氏(43)率いる保守政党「ティサ(尊重と自由)」が支持率を急拡大させている。マジャル氏はソーシャルメディアを舞台に強権的な姿勢で知られるオルバン政権批判を繰り広げ、注目を集めた。9日に投開票される欧州議会選にも候補者を擁立している。

 マジャル氏は3月以降、オルバン政権の汚職体質などに抗議する大規模集会を頻繁に開き、欧米メディアで脚光を浴びた。英紙ガーディアンなどによると、5月に第2の都市デブレツェンであった集会には約1万人が集まり、マジャル氏は「ハンガリー人の大多数はプロパガンダや、作られた分断に疲れ切っている」と政権を批判した。オルバン首相の支持率が高い地方都市でも数千人の参加者を集め、野党が開く集会としては異例の盛り上がりだという。

 マジャル氏はもともとオルバン首相率いる中道右派与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」の党員で、外交官としてベルギーにある欧州連合(EU)のハンガリー常駐代表部で勤務したほか、国有企業の取締役も務めた。しかし今年2月、「内側から見た腐敗ぶりに失望した」(ロイター通信)として職を辞し政権批判に転じることを表明した。

 そのころハンガリーでは、ノバク大統領(当時)が児童への性的虐待事件で有罪判決を受けた男に恩赦を与えたことで市民による批判が高まっていた。これを受けてノバク氏と当時の法相バルガ氏が辞職した。このバルガ氏はマジャル氏の元妻で、マジャル氏は3月、バルガ氏が離婚前の昨年、在職中に家で話したという政権の腐敗ぶりを明かす内容の会話の録音を公開し、一躍有名になった。

支持者との写真撮影に応じる新興野党「ティサ」党首マジャル氏=ハンガリー北部で2024年5月25日、ロイター

 ハンガリーでは与党のフィデスが世論調査で45%と高い支持率を得ているが、メディア統制や親露的な姿勢などを背景に批判も受けている。野党がまとまりを欠く中、マジャル氏が率いるティサは政権に批判的な層の支持を集め、5月の世論調査では25%の支持を得て、早くも「最強野党」となった。

 9日にある欧州議会選挙(定数720)では、ハンガリーから21議席が選出される。ティサは12人の候補者を擁立するといい、独紙「南ドイツ新聞」は最大7人が当選すると分析している。次の国政選挙は2026年だが、それまでに地方選挙にも候補者を擁立するという。

 ただ、クリーンなイメージを前面に押し出すマジャル氏だが疑問も投げかけられている。ハンガリーの独立系メディアによると、マジャル氏が公開した音声は録音も公開も同意がなかったとしてバルガ氏が非難しているほか、家庭内暴力も取り沙汰されている。【ベルリン五十嵐朋子】

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