イランからの直接攻撃を受け、イスラエルのネタニヤフ首相が召集した戦時内閣(4月13日) EYEPRESS via Reuters Connect
<イスラエルとイランはいま、互いの武力と怒りを推し測る心理戦の真っ只中。これまでは、最悪のシナリオを恐れて両国とも手をこまねいてきたが>
イランは4月13日夜、在シリアのイラン大使館に空爆をしてイラン革命防衛隊の高官らを殺害した報復として、イスラエルにドローンやミサイルによる攻撃を行った。イスラエル側はこの99%以上を迎撃したとしているが、それでもイランに対する措置として、報復以外に選択肢はないと言っている。
【動画】宇宙戦争!? イラン無人機とミサイルの大規模波状攻撃を黙らせたイスラエルの最強の盾「アイアンドーム」
報道によれば、イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は14日にロイド・オースティン米国防長官と電話会談を行い、反撃は不可避だと語ったという。だがジョー・バイデン米大統領をはじめとするバイデン政権の当局者らはイスラエルに対して、反撃するかどうかは慎重に考えるべきだと促している。バイデンはまたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対して、イスラエルがイランを直接攻撃する場合、アメリカとして参加または支持するつもりはないとも伝えた。
アメリカからの圧力を受け、イスラエルは選択を迫られている。高いリスクを犯して、イラン国内にある標的(核関連施設などの重要標的)を攻撃するか。それとも中東戦争に拡大するリスクを低減させるために、イラン政府に対するサイバー攻撃やイラン国外にいるイランの司令官を攻撃する、あるいはイランの支援を受けたヒズボラなどの代理勢力に対する攻撃など、より焦点を絞ったアプローチを取るか。
イスラエルは決断を急ぐべきではないと専門家
イスラエル戦時内閣の閣僚たちはベンヤミン・ネタニヤフ首相に迅速な行動を求めているが、専門家は決断を急ぐべきではないと警告している。
米国防総省の元アナリストで現在は米独立系シンクタンク「新米国安全保障センター」の中東安全保障プログラムのディレクターを務めるジョナサン・ロードは、「ものごとを戦略的に考えて動く者もいれば、単刀直入なやり方を好む者、直情的で無謀な行動を取る者もいる」と述べた。「おそらくイスラエルは反撃せざるを得ないだろうが、すぐに行動に出なければならないような差し迫った事情はない。急ぐ必要はない」
では、イスラエルに与えられた選択肢とは何か。
1)イランの核施設を攻撃する
アメリカのトランプ政権が6年前にイラン核合意を離脱して以降、イランは核開発を加速させている。アメリカの複数の高官は2023年、イランが核弾頭を搭載可能な兵器の製造を始めたかどうかは不明だが、核兵器の製造を決定した場合、早ければ数カ月で配備が可能かもしれないと示唆した。だとすれば、イランの核関連施設はイスラエルにとって相手に対する打撃という点で魅力的な標的となる――ただし攻撃すれば事態を大幅にエスカレートさせる危険がある。
米元国防当局者のマイケル・マルロイは、「イスラエルによるイランへの反撃は、核関連施設と疑われる施設や防衛産業の基盤などの重要標的を狙うものになる可能性がある」と述べた。「イスラエルがその片方または両方への攻撃を成功させれば、イランにとって、イスラエルを怒らせた今回の攻撃は戦略ミスだったことになる」
ただし、イスラエル側にもリスクはある。イラン最大の核施設の一つであるナタンズ核施設はザグロス山脈の地下深くに建設されており、アメリカ製の最大規模のバンカーバスター(地中貫通爆弾)を使っても到達できない可能性がある。
「攻撃しても失敗する可能性がある」とロードは指摘する。「イランが秘密裏に核兵器を製造している可能性よりも、イスラエルがそれを破壊しようとして失敗することの方が最悪の事態だ」
イランの核関連施設への直接攻撃は、週末にイスラエルがイランのドローンやミサイルを迎撃するのに協力したヨルダンや欧米諸国との結束の終わりを意味することになるかもしれない。さらにレバノンを拠点とするイスラム武装勢力ヒズボラなどのイランの代理勢力が今後、イスラエルとこれまで以上に激しい攻撃を仕掛けてくる事態を招く可能性もある。
アメリカが既にイランへの直接攻撃を支持しないと示唆していることを考えれば、イスラエルは(特にバイデンの再選が掛かった大統領選が年内に迫るなか)度を超した行動を取って最大の軍事支援国であるアメリカを怒らせることがないように、注意を払う必要があるだろう。
英シンクタンク「王立国際問題研究所」の研究員で元米国防当局者のビラル・サーブは、「アメリカとイスラエルの間で既に幾らかの緊張や意見の相違がみられる」と指摘する。「イスラエルにとって、このきわめて重要かつ危険な時期にアメリカの支持を失うことは、最も避けたいことだ」
2)イラン軍の司令官や施設を狙う
イスラエルはイラン国内で、イランの核開発計画とは直接関係のない標的を攻撃することもできる。たとえば今回のイランによるドローンおよびミサイル攻撃を指揮した、イラン革命防衛隊航空宇宙部隊のアミール・アリ・ハジザデ司令官など、イラン軍の重要人物などだ。
「そうなれば、13日から14日にかけて行われた大規模攻撃を指揮した男を直接、狙うことになる」とロードは述べた。「ハジザデは常にイスラエル側の標的リストに名前が入っている人物だ」
イラン国内の軍事施設や武器保管庫、さらには革命防衛隊の本部もイスラエルの標的になり得る。
元米国防当局者のマルロイは、「(イランから初の直接攻撃を受けた)イスラエルは、イラン国内に直接反撃することを選ぶ可能性が高い。だが戦闘拡大を阻止するために、アメリカがイスラエルを思いとどまらせようとするだろう」と述べた。
それでもイランに対して反撃しない訳にはいかないイスラエルとしては、イラクやシリアなどイラン国外にいる革命防衛隊の司令官に対する暗殺作戦を強化する可能性もある。4月1日にイラン革命防衛隊の対外工作部門「コッズ部隊」の司令官だったモハンマド・レザ・ザヘディ准将と副官らが死亡した、シリアのイラン大使館への攻撃と同じような作戦――つまり今回のイスラエルとイランの暴力の応酬の発端となったのと同じような攻撃を行う可能性もある。
しかし13日から14日にかけてのイランによる報復攻撃――および2000年1月にイランがアメリカによる革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官(当時)殺害の報復として、イラクで米軍が駐留する施設を弾道ミサイルで攻撃した一件――から分かるように、イスラエルがイランの軍指導者を攻撃すれば、それがイラン国内であろうと国外であろうと、事態を大幅にエスカレートさせる危険がある。
だが重要人物を殺害することが、イスラエルにとって時間稼ぎになる可能性も考えられると、ロードは指摘する。その期間は数週間、さらには数カ月に及ぶかもしれないという。バイデン政権はそのような攻撃を支持しないかもしれないが、アメリカ政府との関係はぎりぎり保ちつつ、イランのさらなる報復を抑止するには十分かもしれない。
「IDF(イスラエル国防軍)は勝利を好むが、守りに入った勝利は好まない」と指摘するのは、2019年から2022年にかけて米中央軍司令官を務めたフランク・マッケンジー退役海兵隊大将だ。マッケンジーによるこの発言があったのは、4月15日、JINSA(安全保障問題ユダヤ研究所)が主催したイベントでのことだ。
それでも、ハジザデ(イラン革命防衛隊航空宇宙部隊司令官)のような指導者やイラン革命防衛隊の施設を攻撃することには、作戦失敗のリスクがある。作戦は夜間に実施する必要があるかもしれないが、イスラエルからの報復を予期して、イランの軍事リーダーたちは身を隠している可能性もある。
「イランは現在、高いレベルの警戒態勢にある」とマッケンジーは付け加えた。「幹部たちは、シェルターのなかにいるだろう」
また、アメリカや他の国々からの自制を求める圧力も、即座の反撃を思いとどまらせる効果があるかもしれない。
「我々が先を見越して動き、即座に国連安保理を招集したという事実、(バイデンが)すぐさまイスラエル首相に電話をかけ、報復を支持しないと伝えた事実、これら2つの要素によって、イスラエルのイランに対する、より積極的な攻撃の可能性は小さくなっているはずだ」とサーブは指摘した。
もしイスラエルの首脳が、イランとの間で緊張がエスカレートすることを懸念するなら、比較的穏健な対応を選ぶかもしれない。それは、イランの支援を受けている中東の代理勢力を攻撃するか、あるいはイランにサイバー攻撃を仕掛けるなどの手段だ。その場合の狙いは、こうした攻撃を通じて、イスラエルがこの地域の有力者であると誇示することだ。
14日未明の攻撃では、イスラエル領内に実際に着弾したイランのドローンやミサイルはほとんどなかった。イランはこれで既に面目を失い、国際的威信にも傷がついた可能性はある。
「連中は大恥をかいた。イスラエルはより一層強くなり、イランは弱くなった」とマッケンジーは語った。「何かしなくてはいけないとしたら、私なら、イランに対する自分たちの技術的な優位性をさらに強調するようなことをする。相手にますます恥をかかせればそれでいい」
レバノンを拠点とするイスラム武装勢力ヒズボラは、この地域でイランと最も緊密で最も重要な親イラン組織だ。イスラエルは、既にこの6カ月間にわたって、ヒズボラに攻撃を行っているが、今後ヒズボラにはるかに強力な軍事作戦の実施に踏み切る可能性もある。
この選択肢も、イスラエルにとってそれなりのリスクをはらんでいる。2023年10月7日に発生した、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム主義勢力ハマスのイスラエルに対する大規模侵攻以降、ヒズボラは、イスラエルとの本格的な戦争に引き込まれるのを避けようとしているように見える。
しかし米ブルッキングズ研究所のダニエル・バイマンは、2023年11月のフォーリン・ポリシー誌への寄稿で以下のように指摘している。「万が一、ヒズボラが全面戦争もやむなしとの結論に至れば、これは大々的なエスカレーションになる。ヒズボラは、10万発以上のロケット弾を擁しており、これはハマスの軍備をはるかに上回る規模だ。また、ヒズボラの戦闘員はよく訓練されており、百戦錬磨だ」。全面戦争になれば、ヒズボラに大きな損害が出ることは間違いないが、イスラエルにも軽傷ではすまないかもしれない。
それでも、イランが自国領土から直接イスラエルを攻撃するという、歴史的な一歩を踏み出したことを受けて、ネタニヤフは、自らが率いる戦時内閣内の強硬派からかなりの圧力にさらされている。
「その選択肢を選んだものの、結果的にそれでは不十分だった場合に、弱腰と受け止められるおそれがある」と、CNAS所属の専門家、ロードは指摘した。
イランは先週末のイスラエルに対する直接攻撃で多くの兵器を使用した。米軍高官によれば、イランはイスラエルに向けて100発以上の弾道ミサイル、30発以上の巡航ミサイル、150機以上の攻撃用ドローンを発射した。
元米中央軍司令部長のマッケンジーによれば、イランはイスラエルを攻撃するのに十分な射程を持つ特殊なミサイルを保管庫から持ち出し、地域戦争に備えた兵器庫のかなりの部分を消耗してしまったという。「イスラエルを攻撃するための弾道ミサイルの大部分は使い果たした」
しかし、イランが自国の火力でイスラエルに対抗するためのより重要な課題は、ミサイル発射装置の不足である。マッケンジーによれば、イランはこの種の攻撃を行うためのミサイル発射装置を300基ほどしか保有しておらず、この地域で大規模な攻撃を行うには大きなボトルネックになるという。
反面イランは、ハイテクを駆使したロシア製の防空システムによって、イスラエルの攻撃を阻止する能力を十分に持っている。チャタムハウスのサーブ研究員は、「イランは、イスラエルの第5世代戦闘機には太刀打ちできない」と言う。「しかし、彼らの防空システムはただ事ではない」
今のところは両陣営とも、最悪のシナリオを恐れて手をこまねいているようだ。「500人のイスラエル人を殺し、F-35を爆破し、シナゴーグを攻撃したら、イランはどんな目に遭わされるだろうか」と、マッケンジーは言う。「私には、イスラエルの反応は考えなくてもわかる。イランも先週末の攻撃前、同じことを考えたのだろう」
(翻訳:ガリレオ他)
From Foreign Policy Magazine
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。