Peerapon Boonyakiat / SOPA Images/Sipa USA via Reuters Connect

<約10年前のコメントが王室への不敬罪として起訴された元首相。昨年の新政権発足を機に亡命先から帰国したが、カムバックをこれ見よがしにアピールし過ぎたか?>

タイの検察当局は5月29日、王室を侮辱した罪でタクシン・シナワット元首相(74)を起訴すると発表した。タクシンは別の刑事事件で服役し2月に釈放されたばかりだ。

検察の報道官は記者団に対し、「検事総長はタクシンを全ての容疑で起訴することを決めた」と述べた。タクシンは6月18日に出廷を求められ、正式に起訴されるという。

2016年にタクシンを不敬罪で告発したのは王室支持派の活動家だ。タクシンが15年に朝鮮日報のインタビューで、妹のインラック・シナワット首相(当時)を失脚させた14年の軍事クーデターの陰には国王の諮問機関である枢密院の存在があったと述べたことを、彼らは問題にした。

タイでは刑法112条により王室批判と見なされる言動は厳しく罰せられ、最高で15年の禁錮刑を科される。この、いわゆる不敬罪は反対意見を封じるために悪用されてきたとの批判もある。

5月末にも野党の国会議員と活動家のミュージシャンが、不敬罪で実刑判決を受けた。タクシンはコンピューター犯罪法に違反した容疑でも訴えられている。

司法の判断が政局に左右されるのが日常の国で、検事総長がタクシンを不敬罪で起訴した。これは彼の復活を後押しした政治的合意に亀裂が入った可能性を示唆する。

昨年8月、タクシンは15年の亡命生活から帰国し、首相時代に犯した権力乱用などの罪で収監された。だが8年の禁錮刑は恩赦により減刑され、今年2月に仮釈放された。

ポピュリズム政治で01年から19年まで全ての選挙で勝利したタクシン派は、軍部および王室を中心とする保守支配層と20年以上対立してきた。タクシンの復活はその突然の雪解けを反映していた。

王室派+軍vsタクシン派

背景には政界再編がある。昨年5月の総選挙でタクシン派のタイ貢献党は、最多議席を獲得した急進派前進党の後塵を拝した。だが悶着の末に前進党ははじき出され、貢献党は軍に近い保守政党と大連立を組んで新政権を樹立した。

タクシンの帰国は、不動産業界出身のセターが首相に選出された8月22日のことだった。タクシンは刑期の大半を警察病院のスイートルームに滞在し、半年で出所した。

その彼が不敬罪で起訴されたという事実は、貢献党と保守派支配層の雪解けムードが揺らいでいることを示す。

タクシンも悪手を打った。仮釈放された直後から、政界に力を誇示してみせたのだ。ディプロマット誌のコラムニスト、ティタ・サングリーはこう書く。

「(タクシンは)すぐさま南北の主要な県を訪問した。開発用地を視察し、地元の大物政治家や官僚、実業家と交流し、これ見よがしに復活をアピールした」

またミャンマー内戦の調停役を買って出たがうまくいかず、5月の内閣改造にも口を出したとされる。

王室を含む王室支持派と軍部のトップはタクシンの前のめりな活動再開に立腹し、警告を送っているのかもしれない。また王室派の多くはタクシン派に対する悪感情が今も抜けていないのかもしれない。

起訴をきっかけに激しい対立が再燃するか否かは分からない。だが和解が長続きするかどうかは、不敬罪訴訟の行方が教えてくれるだろう。

From thediplomat.com

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