プーチンの最近の訪中は多くのことを物語る(北京、5月16日) SERGEI BOBYLEVーSPUTNIKーPOOLーREUTERS

<ロシアを「弟分」にしつつも対米関係をこじらせないようにする中国。北アジアへ広がる権威主義圏は、本格的な世界の対立構造への発展に>

ロシアのプーチン大統領が「再選」されてから初の外遊先に中国を選んだことは、進行中の国際秩序の変化を浮き彫りにした。

世界最大のユーラシア大陸に中国、ロシア、さらには北朝鮮も含む新たな同盟関係がつくられている。2022年にロシアが始めたウクライナ侵略戦争の直接的な結果として、新たに「権威主義圏」と呼ぶべきものが出現しているのだ。

ロシアはこの戦争で、ウクライナの併合を目指している。西側諸国はロシアに強力な経済制裁と貿易制限を科し、欧州諸国とロシアの貿易関係、そしてロシアから欧州へのエネルギー輸出をほぼ抑え込んだ。

この状況に付け込んだのが中国だ。ロシアは戦費を稼ぐため、早急にエネルギーを輸出する必要がある。中国そしてインドはこの機に乗じ、ロシアに石油や天然ガスの大幅な値引きをさせることに成功した。

ただし中国は、西側の追加制裁を誘発しないよう慎重を期した。対米関係を余計にこじらせたくないので、武器や機密技術はロシアには直接渡さない。最先端技術について、中国は依然として西側、特にアメリカに大きく依存している。

中国政府は自国企業の西側市場での売り上げに響くことは避けたいため、ウクライナ戦争には日和見的な姿勢を取っている。ロシアとの連携は強めながら、戦争に関する公式の立場はあくまで中立だ。

22年にロシアがウクライナの首都キーウの占領作戦などで行き詰まったため戦争は長期化し、ロシアと西側の対立は深まった。

西側諸国から見れば、ウクライナ侵攻は西側の覇権への挑戦だ。だがプーチンは、かつての冷戦の結果を修正して超大国の地位を取り戻す道として位置付けている。

アメリカとその同盟諸国と争って栄光を取り戻せると考えているなら、プーチンとロシアのエリート層は大変な思い違いをしている。

ロシアにはそんな経済力も技術力もない。プーチンは国のために何もやっておらず、ロシアを新たな超大国である中国に依存する弟分にしてしまった。

先頃のプーチンの訪中は、誇大妄想の彼が率いるロシアと慎重な中国という対照的な2国の関係が強化されていることを示している。北アジアへ広がる権威主義圏が出現したことで、ウクライナ危機は本格的な世界の対立構造に発展しかねない。

世界の二分化の輪郭は既に見え始めている。グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の多くは、新たな権威主義圏に味方しようとするだろう。

欧米諸国は過去に間違いを犯した上に、これらの国を長年にわたって無視してきた。特にイランは重要な役割を果たすはずだ。中東における武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」の中心にあり、地域の覇権を追求している。

こうした情勢の変化はアメリカに不利に働く。超大国としての立場が脅かされ、アメリカはウクライナと中東で戦争への関与を強めざるを得なくなる。

アメリカは対イラク政策で失敗して中東から遠ざかっていたが、ロシアのウクライナ侵攻、北アジア権威主義圏の形成、イスラム組織ハマスによるイスラエル急襲を受けて、距離を置く時期は終わったようだ。

アメリカの政策立案者や専門家は進行中の国際秩序再編について、世界を導く超大国としてのアメリカの役割と、その将来の地位に関わる問題だと認識するようになった。

AI(人工知能)などの未来技術で優位に立つための競争が始まっている今、世界秩序の再編は地政学だけでなく、技術革新、経済、移民、教育を包摂するプロセスでもある。根本的に違う2つの体制間に生じる新たな対立は、国際情勢のあらゆる場面に広がっている。

©Project Syndicate

ヨシュカ・フィッシャー
JOSCHKA FISCHER
左翼活動家から政治家に転身。ドイツ緑の党の中心人物として、ヘッセン州環境・エネルギー相などを歴任した後、シュレーダー政権では連邦外務大臣兼副首相を務めた。

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