11月のアメリカ大統領選挙まで5か月あまり。選挙戦がヒートアップしていく中、トランプ前大統領は、いわば「敵地」とも言える場所に大統領経験者として初めて踏みこんだ。その狙いは何だったのか。(TBSワシントン支局長 樫元照幸)

トランプ氏に罵声… 小政党の党大会で何が?

熱狂的なトランプ支持者が盛大に歓声を上げるいつもの集会とは明らかに違う、異様な雰囲気に包まれていた。

首都ワシントンで開かれていた小政党「リバタリアン党」の全国党大会。25日夜、トランプ前大統領が登壇して演説を行ったのだが、リバタリアン党の党員からは時には大きなブーイングがあがっただけでなく、時には罵るようなヤジもあがり、一方で時には歓声や拍手で沸く場面もあった。リバタリアン党は「自由」にこだわった独自の政策を訴え、2大政党の民主党と共和党のどちらも強く批判している。

アメリカは民主党・共和党の「2大政党制」とされているが、他の党が存在しないわけではない。中でもリバタリアン党は歴史や規模で「第三の党」とも言える政党だ。全米50州と首都ワシントンDCに支部を持ち、1972年以降、毎回大統領候補を選出してきた。得票率は毎回1%に満たない結果だったが、トランプ氏とヒラリー・クリントン氏が戦って「嫌われ者対決」と言われた2016年の大統領選挙では、2大政党への批判票を集めたのか、約3.3%(約449万票)の票を得る結果を残した。

リバタリアン党は「リバティ=自由」を重視して1971年に結成された政党で、とにかく「個人の自由」を重視し、あらゆる「政府の規制」に反対している。いわゆる「小さな政府」を標榜し、銃を持つ権利などを重視することから、一部の主張は保守的な共和党と重なるが、全く異なる面も合わせ持つ。

薬物・賭博・売春などは「被害者がいない」として取り締まりに反対し、薬物を取引可能な闇サイトの創設者が逮捕されたことに強く反発している。国が税金を課すことを批判し、国税当局や中央銀行である連邦準備制度の解体を主張。国境を越えて押し寄せる不法移民については「政治的自由を求めて国境を越えてくる人たちを政府が妨害してはならない」という立場だ。

簡単に言えば「アメリカは自由の国だ。国民1人1人の好きなようにやらせろ」という人たちの集まりだ。ちなみに外交面では外国との連携や同盟を否定し、あらゆる紛争への関与に反対。外国への制裁や関税にも反対している。「他の国には口出ししない。アメリカにも口出しするな」ということだ。

“上から目線”で挑発 トランプ氏が示した「アメ」

そんなリバタリアン党の党大会でトランプ氏がまず訴えたのは、“バイデン政権の横暴”だった。
トランプ氏は「自分はバイデン政権によって不当に起訴され、言論の自由も奪われた」と主張。「権利と自由が危機にさらされている。いんちきジョー・バイデンが国を滅ぼそうとしている」と強調した。

また、自身がパリ協定やWHO(世界保健機関)からの脱退を表明したことや大幅減税を実現したことなど、リバタリアン党の主張にそった実績もアピールし、会場からは拍手もあがった。

そしてトランプ氏は「リバタリアン党は私を支持するか、私に投票するべきだ。ともに戦えばこの国はより自由になる」と要求。「もし勝ちたくなければ私を支持しなくてもいい。今後もずっと支持率3%を取り続ければいいじゃないか。」と“上から目線”で挑発し、今度は大きなブーイングがあがった。

罵声が飛び交う中、トランプ氏はリバタリアン党に「アメ」を見せつけた。「自分が大統領に返り咲いた際には、閣僚と政府高官にリバタリアン党の党員を抜擢する」と約束したのだ。また、リバタリアン党が釈放を求めている闇サイトの開発者の釈放や、教育省を解体して教育の権限を州にゆだねる方針を表明した。これには拍手があがったり、罵声があがったりと、人によって反応は異なったが、いずれの党員をも見下すような態度でトランプ氏はこう続けた。

「重視する政策は我々と同じだ。票を無駄にするな。最悪の大統領が国を滅ぼすのを続けさせてはいけない」

僅差の大統領選 「第三勢力」がカギを握る理由

過去には「第三勢力」が大統領選挙に影響をもたらしたことがある。1992年には実業家のロス・ペロー氏が全体の19%ほどの票を獲得。保守派の支持が割れたことで、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領(共和党)はビル・クリントン氏(民主党)に敗れ、再選を果たすことができなかった。

また、2000年には消費者運動の旗手と呼ばれたラルフ・ネーダー氏がリベラル層の一部の票を奪い、アル・ゴア候補(民主党)が、ジョージ・W・ブッシュ候補(共和党)に惜敗する一因にもなった。ゴア候補はフロリダ州でブッシュ候補にわずか537票差で敗れ、大統領の座を逃すことになったが、この時ネーダー氏がフロリダ州で獲得した票は約9万7000票(得票率1.63%)に上っていた。アメリカの大統領選の仕組み上、「第三勢力」の候補が勝利する可能性はゼロだが、わずかな得票でも大統領選挙の結果を左右することがあるのだ。

トランプ氏がリバタリアン党の党大会に乗り込んでまで支持を訴えた背景には、バイデン大統領との支持率が拮抗している現状がある。リアル・クリア・ポリティクスがまとめた世論調査の平均(5月6日~23日)では、トランプ氏の支持率が47.1%・バイデン氏が46.2%と互角の情勢が続いている。11月の大統領選挙はわずかな票差で勝負が決まる可能性が高く、「第三勢力」の動向が勝敗の行方を左右しかねない。

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