中国に「女性の国」と呼ばれる場所があります。女性が家長をつとめ、土地や財産はすべて母から娘に相続されると言います。世界でも珍しい女系の伝統から見えた自由な家族のかたちとは…

■中国にある「女性の国」家長も相続もすべて女性

中国南部、雲南省。湖のほとりに「女性の国」はありました。

中国の少数民族「モソ族」です。およそ5万人がほぼ自給自足に近い暮らしを送っています。なぜ「女性の国」と呼ばれるのか、ある家族を訪ねてみました。

出迎えてくれたのは、87歳の女性です。

アールツァーマーさん(87)
「私の母も、その母もそうでした。モソ族は代々、女性が家長をつとめているのです」

1500年以上前から続く伝統で、土地も財産もすべて母から娘へと、女性が相続します。「女性の国」と呼ばれるゆえんです。

アールツァーマーさん
「女性が尊敬されることが一番大事です。ただ、家長としての能力がないと、尊敬はされません」

高齢になった祖母に代わり今、家長として家を取り仕切っているのは孫のガータさん。家事に加え、お金の管理に冠婚葬祭。すべてのことに責任を負っています。

ガータさん(42)
「モソの女性は大変です」

――どうして苦労が多いのですか?
「力仕事以外の家の仕事はすべて女性の仕事だからです。(家長という)権威があると責任が重いのは仕方がないですね」

――男性は家長をやりたがらないのですか?
「大家族を管理するのは難しいから、男はやりたがりません」

家長であることも、なかなか大変なようです。なぜ、女性が家長をつとめるようになったのでしょうか?

■「通い婚」で男性は子育てに責任なし?

ガータさん
「女性はお金をきっちりと管理しますし、とにかく家族のために貯蓄をします。無駄遣いもしません」

「家父長制」の中国では、男の子が生まれると喜ばれる傾向にありますが、モソ族の間では逆に女の子が生まれると「家が繁栄する」と喜ばれるそうです。もちろん男性も、力仕事などは手伝います。

ガータさん
「危ない仕事は全部男の仕事」

さらにユニークなのはモソ族には、「結婚」という概念がないことです。ガータさんの夫にあたるショウさん。2人は結婚していません。

ショウさん(47)
「夜だけ一緒に過ごして、昼間はそれぞれ自分の家で過ごすのです」

男性は普段、母親の家で暮らし、時々、女性のもとを訪れる。いわば「通い婚」です。ただ、この日のように、家事を手伝ったり、食事を共にするために顔を出すことも多いと言います。

ガータさん
「毎日一緒にいると些細なことで喧嘩になりますが、私達は独立した関係ですから、そういうことはないですね。結婚していないので離婚もありません。お互いに気が合わなくなったら、会わなければいいだけです」

子どもは全員ガータさんの姓を名乗り、ガータさんの家族のもとで育てられています。男性は子育てに責任を負わず、養育費も払いません。嫁姑問題も発生せず、子どもの親権を争うこともない。きわめてよくできた制度に思えます。

■ 男性は朝からトランプ「権力は女性に」

ガータさんの家には祖母の息子、つまりガータさんのおじさんが一緒に暮らしています。彼もまた、外に「妻」にあたる女性と子どもがいます。しかし…

ガータさんのおじ
「自分の子どもよりも、甥や姪にもっと愛情を感じます。わたしの役目は姉妹の子どもの成長を見ることです。」

何とも不思議な家族のかたち。さらに…

――普段はどんな仕事を?
ショウさん
「普段は遊んでます」

――ガータさんは怒らないの?
「なんで怒るの?時間があればそれぞれ遊べばいいし、彼女は何も言わないよ」

――モソの男最高ですね?
「自由で楽しいよ」

朝9時だというのにこれから、友達の家にトランプをしに行くと言います。なんとも気楽なモソの男たち。一応、時々は働いて、自分の母親の家にちゃんとお金を入れるそうですし、女性も自由に遊びに行くそうです。

でも、男性も「家長」をやりたくないのでしょうか?

ショウさん
「そんなことは考えてもみませんでした。全ての権力は女性にあるのです。男性に主導権はないけれど、大事にされているし、今のままで満足しています」

■変わる伝統 若者たちの新たな選択

なぜ、世界でも珍しい「女系」の伝統が生まれたのでしょうか。モソ族の研究者は、標高が高く、山に囲まれた閉鎖的な環境だったことや、農地や資源が乏しく交通の不便な場所にあり、ほかの民族が攻めてくることがなかったためではないかと指摘します。

モソ博物館 欧冠葳 副館長 
「モソ族の家族の形は、自由で柔軟性があると思います」

モソ族独特の「通い婚」制度。しかし、若い人たちの考えは変わってきているようです。「通い婚」ではなく、結婚を選んだ夫婦がいます。

「結婚」を選択した夫(27)
「結婚してよかったです。いつも子どものそばにいられますから」

「結婚」を選択した妻(27)
「一緒に暮らせば子どものことで喧嘩もします。でも、私は家族一緒でいま、幸せだと思います」

村の外の生活を知った若者を中心に今ではおよそ3分1のモソ族が「結婚」を選ぶそうです。日本と同じように、家父長制がまだまだ根強い中国。人口の9割を占める漢族の人たちはどう思っているのでしょうか。

漢族の男性
「うらやましいですね。1度体験してみたいです」

漢族の女性
「男女が平等でとてもいいと思います」

漢族の女性
「彼らのやり方は先進的で、理想的なものだと思います」

ガータさん
「モソの女性は自由だと思います。働きたいなら働くし、休みたければ休めばいい。誰にも生き方を縛られないし、家族みんなが楽しく暮らせばいいのです」

モソ族に見る、自由な家族のカタチ。私たちの生き方にもヒントをあたえてくれそうです。

■「女性の国」に見る互いを尊重する自由な家族の形

上村彩子キャスター:
男性も卑屈になっているわけでもなく、伸び伸びと穏やかに暮らしているのが印象的でした。取材を通して、男性と女性がお互いリスペクトし合える。どんなところにヒントがあると感じましたか。

北京支局長 立山芽以子 記者:
「男の人が遊んで暮らす」というと、「女の人が必死に働いて男を養ってるんじゃないか」という風に聞こえるかもしれませんが、決してそうではなくて、男の人も自分の母親の家族を大事にしてますし、ちゃんとお金も入れてるそうです。

また、男も女も遊びたいときは自由に遊ぶ。「女が上」や「男が下」など全然なく、お互いに常に平等で対等な生き方をしているというふうに感じました。

また、「通い婚」ということで、同時に多くの異性と付き合える、など「性に乱れた民族」という誤った見方が広まってしまったそうですが、多くのモソ族は生涯1人のパートナーしか持たないそうです。

取材して思ったことは、日本では「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」「何歳までに結婚しなきゃいけない」「跡継ぎは男じゃなきゃいけない」など様々な暗黙のルールや圧力があります。しかし、モソ族の生き方は「こうあるべき」ということよりも、肩肘張らず柔軟に「どうしたらもっと自由に幸せに生きられるのか。」ということを追求しているのではないか、と感じました。

喜入友浩キャスター:
すごく大事なメッセージを突きつけられたような気がしますが、なぜこうした伝統が生まれたのでしょうか?

立山芽以子 記者:
様々な説があるそうですが「山に囲まれた場所で農地がほとんどなく、他民族が欲しがらないような場所で暮らしていたため、争いがなかった」という指摘があります。

つまり、戦争が多ければ多いほど、力の強い男性が戦うことになるので、結果的に男の人の発言力が強くなりますが、モソ族はそうではなかった、ということです。

上村キャスター:
立山さん取材をして、モソ族のマイナスな面は何かありましたか?

立山芽以子 記者:
モソ族のような家族のあり方は、大家族だからこそできるのではないか、と思いました。核家族が進んでいきますと、なかなかモソ族的な家族のあり方は難しくなるのかもしれません。

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