米国旗=米首都ワシントンで2023年11月14日午後、西田進一郎撮影

 米東部バーモント州警察は5月29日、1982年に起きた出産直後の乳児の死体遺棄事件について、DNA検査と家系図作成の手法を組み合わせた「遺伝子系図」による調査で容疑者を特定したと発表した。専門企業への調査委託費用は、クラウドファンディングで調達。現代的な手法の活用によって、42年前のコールドケース(長期未解決事件)を解決した。

 警察の発表によると、82年4月、同州ノースフィールドでスクールバスを待っていた子供たちが、路肩に遺棄された乳児の遺体を発見し、保護者を通じて警察に通報した。遺体は男児で、茶色いバスタオルにくるまれ、袋に入れられていた。身元の特定につながる有力な手がかりはなく、死因も特定できなかった。

 州警察は2020年、「遺伝子系図」の活用によってコールドケースの解決が相次いでいることに注目し、遺伝子技術企業「パラボン・ナノラボ」(本社・南部バージニア州)に協力を依頼した。調査費用5300ドル(約83万円)は、事件捜査のための寄付を募るウェブサイト「ジャスティス・ドライブ」を通じて調達した。パラボン社は21年12月、男児の父親と母親の可能性がある人物を特定。DNA検査で2人が男児の両親だと確認された。

 両親の供述によると、事件当時、父親はバーモント州を離れていた。母親も出産直前まで妊娠に気づいておらず、陣痛が始まった当初も病気だと勘違いしたという。しかし、途中で陣痛だと気づき、一人で出産したが、意識を失った。意識が戻って男児が生まれたことに気づいたが、へその緒が首に絡まっており、男児は死亡していた。

 母親は森の中で遺体を埋葬する場所を探した。しかし、人の声を聞いた気がして怖くなり、方向転換しようとした時に足を滑らせた。そのはずみで、抱いていた乳児の遺体が地面に落ち、母親はそのまま逃げたという。

 州警察は検察当局と協議し、母親を殺人容疑で訴追することは断念。死体遺棄容疑も公訴時効が成立していた。

 パラボン社の調査では、DNA検査の利用者が任意でデータを登録する民間のDNAデータベースを利用し、事件の被害者や容疑者のDNA型と照合して、親族の可能性がある人物を推定。過去の国勢調査の記録(調査から72年後に公開)や州の出生・婚姻記録、新聞の訃報など公開情報に基づき、その人物の祖先や親類をたどり、事件関係者がいないかどうかを調べている。18年以降に200件以上の凶悪事件の容疑者を特定した実績がある。【ワシントン秋山信一】

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