ムスリム女性に対する集団レイプで終身刑に服していた11人全員の早期釈放に抗議する人々(2022年8月) AP/AFLO

<性犯罪を告発することは政府批判と同じ? 最悪の文化を助長するモディ政権の姿勢>

7人の男たちにレイプされた──。インド東部ジャルカンド州をバイクで旅行していたスペイン人とブラジル人の夫婦が、そんな衝撃的な告発をしたのは、今年3月1日のこと。それ以前からアジア各地を巡る旅の様子をソーシャルメディアに投稿していた2人は、妻が強姦され、夫も暴行を加えられたことを傷だらけの顔で報告した。

たちまち動画は幅広くシェアされ、外国のメディアも大きく取り上げる事態に発展した。X(旧ツイッター)やインスタグラムには、インドで一人旅をしたとき恐ろしい目に遭ったと告白する女性たちの投稿があふれた。

同時に外国人観光客がこのような目に遭うなら、インドの女性たちは日常的にどれほど危険な目に遭っているのかという声も高まった。

この事件に関連して、レイプそのものと同じくらい大きな批判を呼んだのは、インドの公的機関である国家女性委員会(NCW)のレカ・シャルマ委員長の発言だった。

あるアメリカ人ジャーナリストが、「インドのことは大好きだが」、インドに住んでいたとき目にした「性暴力は、世界のどこでも見たことのないレベルだった」とXに投稿したところ、シャルマは「インドを中傷している」と、性暴力の被害者に心を寄せるどころか、的外れなインド擁護論を展開したのだ。

だが、シャルマの反応は、この国の政治家の発言として驚きではない。むしろ2014年にインド人民党(BJP)が政権を握って以来、性暴力事件に対する与党のお決まりの反応だと言っていい。

「女性のパワー」を訴えるモディ政権だが性暴力については沈黙

ナレンドラ・モディ首相の政府は、表向きは「ナリ・シャクティ(女性のパワー)」を唱えているが、性暴力には一貫して沈黙を守ってきた。シャルマだけでなく、スムリティ・イラニ女性児童育成相など、まさに女性を擁護する立場にある女性政治家が、性暴力に対して声を上げた女性たちを、政権を不当に批判する人物と決め付けることも珍しくない。加害者がBJPの議員や党職員の場合は特にそうだ。

女子レスリング五輪代表選手としてインドにメダルをもたらしたサクシ・マリクと、ビネシュ・フォガットが昨年、インドレスリング連盟トップ(当時)でBJP議員のブリジ・ブシャン・シャラン・シンをセクハラで告発したときもそうだった。マリクとフォガットはシンを法の裁きにかけるべく大きな犠牲を払ったが、モディは今も沈黙を守っている。

BJPにとっては、シンがベテラン政治家で、地元北部ウッタルプラデシュ州の選挙に影響を与えられる人物である事実のほうが、女性アスリートの苦悩よりも重要なのだ。

BJPの大物政治家でインドレスリング連盟会長(当時)のシンをセクハラで告発した女子レスリング五輪代表選手たち VIPIN KUMARーHINDUSTAN TIMES/GETTY IMAGES

一方、東部の西ベンガル州の農村で、複数の女性たちが、同州議会与党・草の根会議派(TMC)の実力者であるシャージャハーン・シェイクに性的暴力を受けたと主張している事件には、全国的な注目が集まっている。州政府の圧力を受けて、警察は50日以上もシェイクを自由にさせていたが、2月にカルカッタ高等裁判所の命令により、ようやく逮捕に踏み切った。

保守的で家父長制が強く残るインドでは、昔から女性が暴力の標的になりやすかった。それでもBJPが権力を握ってからの10年間に、いかに多くの性犯罪者が「おとがめなし」で済まされてきたかは衝撃的だ。

野党や人権活動家らが、女性を守るというモディ政権の「虚言」を非難するのは無理もない。モディ政権は少女たちの保護と教育を重要政策に掲げているが、むしろ必要なのは少女たちをBJPの毒牙から守ることだと、彼らは主張する。

BJPは上位カーストの犯罪者たちを徹底擁護

ヒンドゥー至上主義を掲げるBJPは家父長制にしがみつき上位カーストによる支配を擁護している。20年、ウッタルプラデシュ州のハトラス地区で貧しいダリト(不可触民)の少女が富裕な上位カーストの男たちに集団レイプされ、その後搬送先の病院で死亡。警察は男たちの容疑を否定したばかりか遺族の承諾なしに被害者の遺体を火葬して証拠隠滅を図った。

市民の猛反発を受けてヨギ・アディティナート州首相は重い腰を上げたが、被告4人のうち3人は無罪、残る1人は殺人罪ではなく、より軽い故殺罪で有罪になった。

特にムスリム(イスラム教徒)の女性はBJPの女性蔑視の標的になりやすい。ヒンドゥトバ(ヒンドゥー至上主義)の活動家はヒンドゥーの女性に対するムスリムの男のさまざまな罪を罰するためと称して、ムスリムの女たちを妊娠させろとヒンドゥーの男たちをあおり、ムスリムの女たちをレイプすると脅す。

「競売」と称して著名なムスリム女性の写真とプロフィールを勝手に公開する「ブリバイ」や「サリディール」というサイトも見つかっている。

国の権威主義的な力が露呈したのは、02年のある集団レイプ事件がきっかけだった。インド独立以来最悪の部類に入る暴動の最中、モディが州首相を務めていた西部グジャラート州でムスリムの妊婦をヒンドゥー教徒の男たち11人がレイプ。泥沼の法廷闘争の末、全員が有罪判決を受けて終身刑を言い渡された。

ところが22年8月、州政府は彼らを「模範囚」として釈放し、インド内務省もこれを承認。この法をゆがめた茶番劇は著名な女性活動家たちの猛反発を買い、今年1月にインド最高裁判所が早期釈放の判断を覆した。

女性を守ると公言しながら状況を悪化させるモディは非難を浴びている ALTAF HUSSAINーREUTERS

性暴力被害は恥と考え、ほとんどが「泣き寝入り」

女は家庭で家族の世話をするものというのがBJPとその兄弟組織の考え方だ。女たちは生涯にわたって父親や夫や息子など男たちに従うことを期待される。ヒンドゥー教の右翼組織は男らしさや力ずくの好戦的愛国主義を露骨に誇示したがる。近年では女性の服装や食事、人付き合いや結婚相手まで指図するようになっている。

現体制の下ではヒンドゥトバの活動家は何をしてもおとがめなし。警察は世間の圧力か裁判所の命令がない限り動かない。

12年には首都ニューデリーを走行中のバスの車内で凶悪な集団レイプ事件が発生。これを機に当時の国民会議派主導の連立与党・統一進歩連合(UPA)政府は性暴力に厳格な法律を施行した。凶悪事件では死刑もあり得る。それでも性暴力は増える一方だ。インド国家犯罪記録局のデータによれば、性暴力の発生件数は21年の42万8278件から22年は44万5256件に増えている。減少したのはコロナ禍の最中だけだった。

22年のレイプ事件の報告件数は3万1516件、1日当たり平均86件に相当する。ただし、これはあくまでも報告件数のみで、性暴力被害は恥と考えて報告しないケースがほとんどだ。

BJPは「女性差別的」との批判をかわすため、女性閣僚が史上最も多いとたびたび力説するが、BJPの女性政治家は家父長制擁護の代弁者だ。例えばイラニ女性児童育成相は北東部マニプール州の民族対立を背景にした女性への迫害を黙殺している。モディ自身、西ベンガル州のママタ・バナジー州首相や国民会議派のソニア・ガンジー前総裁らライバル女性政治家たちを見下す発言をしがちだ。

ヒンドゥトバの活動家たちが女性蔑視に興じているとしたら、その原因は彼ら上層部にある。

From thediplomat.com

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