弾道ミサイルの発射実験を行った北朝鮮に対して、韓国軍が発射したATACMS。いざとなれば北朝鮮の軍事施設を正確に攻撃できるという示威(2022年6月7

<弾薬不足で劣勢に立たされているウクライナ軍だが、アメリカの追加支援パッケージにも入っていたATACMSがロシアの軍事資産の攻撃・破壊に大活躍しているようだ>

ウクライナは、現在の前線よりも遥か先にあるロシアの標的――ロシア軍の部隊や防空システム、軍用機や艦船――を攻撃するために、新たに供与された兵器システムをフル回転で使用している。

【動画】追加支援でウクライナ軍が受け取るATACMS、ストームシャドウ、ハスキーの実力

ウクライナとロシアの情報筋、および公開情報分析OSINT(オープンソース・インテリジェンス)のアナリストらは、ウクライナがこの数週間にロシア軍関連施設に大きな打撃をもたらした攻撃について、アメリカから供与を受けた陸軍戦術ミサイル(ATACMS)を使用したものだと指摘している。

 

ATACMSは前線から遠く離れたところにあるロシアの重要資産を攻撃することができる長距離の強力な兵器として、ウクライナが以前から供与を強く要望していた。

ウクライナ軍は2023年10月にクラスター弾をこめたATACMSを初めて使用し、ウクライナ国内にあるロシア軍の軍事拠点2カ所を攻撃して数多くのヘリコプターを破壊した。また4月24日にはアメリカのジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官が、ジョー・バイデン米大統領が2月の時点で「かなりの数のATACMS」をウクライナに供与することを承認していたと明らかにした。ATACMSは、米政府が3月12日に発表したウクライナへの3億ドルの追加支援パッケージにも盛り込まれており、4月下旬の時点で既にウクライナに届いていると述べた。

長射程ATACMSの威力をフル活用

ATACMSはそれまでのミサイルよりも射程距離が長く、ロシアの占領地域の奥深くまで攻撃できる能力がある。ロシア軍がウクライナ東部で進軍を続けるなか、ウクライナ軍は南部クリミアを中心に、前線から離れたロシア軍のジェット機や司令部などの標的に狙いを定めている。

西側の同盟諸国はウクライナに対して、ATACMSはロシア領内ではなく、ウクライナかロシアに奪われた領土でのみ使用するよう警告している。西側の武器でロシアを直接攻撃すると、戦争が他国も巻き込みエスカレートしかねないからだ。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は5月24日、ウクライナの国防当局者の発言を引用し、ウクライナ軍がクリミア半島南岸のアルシタ市にあるロシア軍の通信施設をATACMSで攻撃したと報じた。

クリミア半島への攻撃にはこれまでも何度かATACMSが使用されたとされている。ウォール・ストリート・ジャーナルはウクライナの当局者から得た情報として、ウクライナ軍が4月にクリミアにあるロシア空軍の基地をATACMSで攻撃し、ミサイル発射装置や先進防空システムのレーダーなどを破壊したと報じた。

インターネット上でも、ウクライナ軍がATACMSを使用してロシア占領下にあるクリミア半島セバストポリ近郊にあるベルベク飛行場を攻撃した後の様子を捉えたとされる衛星画像が広く共有されている。この画像からは、ウクライナ軍が複数の航空機を損傷または破壊するのに成功したことが伺える。

ウクライナ軍は先週末、セバストポリでロシア黒海艦隊の掃海艇を攻撃したと発表。さらにその後、ロシア海軍のミサイルコルベット「ツィクロン」も攻撃したと発表した。ロシアの独立系メディア「アストラ」が、ATACMSのミサイル3発がツィクロン周辺のロシア軍防空網を突破したと報じるなど、この攻撃についてもATACMSが使用されたのではないかという指摘が飛び交った。

 

また複数のアナリストによれば、ウクライナ軍が5月下旬にウクライナ東部ドネツク州モスピネ近郊のロシア軍占領地域で、ロシア軍のミサイル発射装置4基とレーダー基地を破壊したと。ロシアとウクライナの情報筋は、この攻撃にもATACMSが使用されたと報告している。

5月はじめには、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部ルハンスク州にあるロシア軍の訓練場を狙った攻撃があり、ロシア兵100人超が死亡。この攻撃にもATACMSが使用された。

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