クアッド首脳会合後に会見する岸田文雄首相(2022年5月) KIYOSHI OTAーPOOLーREUTERS

<「日米豪印戦略対話(クアッド)」ではなく、「スクワッド」? アメリカの熱が冷めてしまった理由、そもそも「インド抜き」に意味があるのだろうか>

インド太平洋地域の4つの主要な民主主義国、オーストラリア、インド、日本、アメリカの政府が2017年、休眠状態だった「日米豪印戦略対話(クアッド)」を再び活性化させると決めたとき、意図は明白だった。

4カ国の狙いは、中国の拡張主義に対抗する防波堤を築き、インド太平洋地域に安定した「力の均衡」をつくり出すことだ。しかし、今そのクアッドが漂流し始めている。

17年のクアッド復活の背景には、アメリカの外交政策の根本的な変化があった。アメリカは中国の関与路線を続けてきたが、自国の最大の貿易相手国が地政学上の最大の敵対国になったことに気付いた。

バイデン米大統領はトランプ前大統領と同様、日本の安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」を堅持する上でクアッドがカギを握る存在だと考えた。

そこで、それまで外相レベルで行われていたクアッドの会合を首脳レベルに格上げし、21~23年にかけて、オンライン会議も含めて立て続けに首脳会合を開催した。

しかし、このところ熱が冷めてしまったように見える。今年はアメリカが自国の大統領選に忙殺されることを考えると、年内に首脳会合が行われる可能性は小さい。

このような状況になった理由ははっきりしている。アメリカにとっての優先課題が変わったのだ。ロシアのウクライナ侵攻と中東情勢の緊迫化により、インド太平洋地域を外交・安全保障戦略の中核に据えることが難しくなった。

4月下旬に米議会で可決された緊急予算案では、ウクライナ支援が608億ドル盛り込まれたのに対し、台湾を含むインド太平洋諸国の安全保障関連の支援は81億ドルにとどまっている。

インド太平洋地域に振り向けることのできる予算に限りがある状況で、バイデンは中国の習近平(シー・チンピン)国家主席との対話により、台湾での戦争を防ぎたいと考えているようだ。

4月には習との電話会談で、台湾海峡の平和を維持することの重要性を強調した。バイデンは、中国に対する融和路線を通じて、中国とロシアの同盟関係の強化も防げると考えているらしい。

問題は、中国への融和路線とクアッドの強化が全く相いれないということだ。バイデンが中国に相次いで閣僚を派遣し、昨年11月にアメリカで習と会談して以降、クアッドの首脳会合が開催されていないのは、偶然ではないのかもしれない。

バイデン政権は最近、クアッドほどは中国に対して挑発的でない日米豪比の枠組み──通称「スクワッド」──を優先させているように見える。これは、アメリカと、もともとの同盟国であるオーストラリア、日本、フィリピンで構成される非公式のグループである。

しかし、インド抜きの「反中同盟」にどの程度の意味があるだろうか。今世紀に入って中国の人民解放軍部隊と本格的に対峙し双方に死傷者を出した唯一の国がインドなのだ。

実際、バイデンの中国歩み寄り路線は、これまでほとんど成果を上げていない。むしろ、中国は台湾への圧力を強めているし、南シナ海での挑発的な行動も激化させている。

アメリカがアプローチを改めない限り、中国の台湾攻撃やロシアとの関係強化を抑止することはできないだろう。ロシアのウクライナ侵攻を抑止できなかった二の舞いになる恐れがある。

インド太平洋地域の安全を維持するためには、クアッドに明確なミッションを持たせ、この枠組みの機能を強化する以外に道はない。バイデンやほかの3カ国の首脳は、この点をしっかり肝に銘じるべきだ。

それを怠れば、クアッドは実態を欠いた同盟になりかねない。「張り子のトラ」で中国を牽制することは不可能だ。

©Project Syndicate

ブラマ・チェラニ
BRAHMA CHELLANEY
インドにおける戦略研究・分析の第一人者。インド政策研究センター教授、ロバート・ボッシュ・アカデミー(ドイツ)研究員。『アジアン・ジャガーノート』『水と平和と戦争』など著書多数。

「クアッド」とは何か?

Who Are the Quad and Why Are They After China/The Military Show
 

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