18歳になったトランプの三男バロン(中央)が熱狂的な注目を集めている THE MEGA AGENCY/AFLO

<推定身長2メートル。SNSに手を出さず、インタビューにも応じない「謎の王子」に陰謀論者たち熱狂する理由とは>

ドナルド・トランプ前大統領の三男で末息子のバロン・トランプは、アレクサンダー大王とあごのラインが似ている。筆者がこれに気付いたのは、ネット上で有名なあるトランプ支持者が、ドナルド王朝の末っ子御曹司と、ギリシャ時代の征服者の彫像の画像を並べて投稿していたからだ。

2人とも地平線のかなたをにらみ、うなじには豊かな髪が波打ち、その気高さたるや確かに男性的で、それでいてややファシスト的にも見える。ここから読み取れるのは、サイコパスな右派トランプ支持者の空想の中で、バロンは父の皇帝の座を受け継ぐべき存在とされていることだ。

バロンはトランプが3番目の妻メラニアとの間に儲けた唯一の子供で、今年3月に成人した。18歳になったバロンだが、これまでのところ、父の政治的活動からは一線を置いている。保守界のセレブ的な道を邁進するトランプの他の息子たち(長男ドニーと次男エリック)とは対照的だ。

バロンはX(旧ツイッター)やインスタグラムに手を出さず、インタビューに応じたこともない。最近では、トランプの大統領候補指名を確定させる共和党全国大会に出席するフロリダ州代議員の1人に選出されたが辞退した。

だがそんな姿勢などお構いなしに、世間のバロン熱は高まる一方。若きバロンは好むと好まざるとにかかわらず、トランプの遺産の重みを引き継いでしかるべき存在なのだ。

「彼には常に奇妙な個人崇拝が付きまとっていた」と、右派の偽情報に詳しいジャーナリストのマイク・ロスチャイルドは言う。彼が指摘するのは「バロン・トランプのタイムトラベル」説。インガーソル・ロックウッドという無名作家による1890年代の児童小説に端を発する陰謀論だ。

この小説シリーズは、その名もバロン・トランプ(トランプ男爵)という早熟な少年が主人公。この少年もまた高貴な家柄に生まれ、あらゆる困難に立ち向かい、冒険を繰り広げる。彼の帰る家は、トランプ・キャッスルだ。

目を引く規格外の体格

「MAGA(アメリカを再び偉大に)派の中でも一部の極端な人々は、トランプが大統領に就いたのはある種のタイムトラベル実験であったとか、過去に予見された出来事であったなどと、この大昔の無名作品を根拠に主張している」と、ロスチャイルドは言う。とはいえ、「バロンが成人後に復讐者として降臨し、トランプ路線を恒久化するであろうという考えは、比較的最近になって出てきた」。

その思想はネット上の随所に見られる。あるTikTok(ティックトック)クリエーターは、幼いバロンの映像に暗い音楽を付け、「父親が迫害されるのを彼が見てるのが分からない?」と投稿した。

またトランプが最近、バロンは政治のアドバイスをしたがることがあると(軽薄に)話したと報道されると、X上ではローマ皇帝カエサルを兵士らがあがめるGIF画像が拡散された。「バロン・トランプはアメリカのカエサルに間違いない」との投稿も。

バロンは思い込みの激しい熱狂的支持者が忠誠心を投影する対象と化している。陰謀論をテーマにした著作のあるケリー・ワイルによれば、一部の終末論信者は「優れた血統の一族」という概念に夢中になる傾向があるという。彼らの思想は、反移民政策や安っぽい政治劇にも利用される。

「これは右派の優生学信奉者によくある傾向だ」と、ワイルは言う。「トランプがキリストの血統だなどと主張するQアノン界隈や、移民は『わが国の血を毒する』というトランプ自身の発言に表れている。こうしたイデオロギーは、トランプ一族を中心としたアメリカ王室主義的な考え方に結び付きがちだ」

知っておかなければならないもう1つの要素がある。バロンがとんでもなく身体的に規格外であるという事実だ。彼は推定身長2メートル、しっかりした体格で、それがまた復讐に燃える征服者というイメージを確実に助長している。「沈黙の復讐者として完璧だ」と、ロスチャイルドは言う。

ロスチャイルドは、バロン・ブランドの核心を成す要素をこう定義する。バロンは初めて口を開いて自らの見解を表明するその日まで、「暗号」であり続ける。それまではあらゆる印象を投影することが可能なのだ。

バロンの身長は推定2メートル THE MEGA AGENCY/AFLO

典型的なアイドル並み

ネット上のもっと穏健で女性が集う界隈でさえ、バロン熱が急上昇しているのが見て取れる。TikTokやインスタグラムにはバロンファンのアカウントが出現し、ハリー・スタイルズやBTSといった典型的なアイドル並みに、彼の整った顔立ちや王子様っぽさをべた褒めしている。

さらに、主に少女や若いLGBTQ(性的少数者)がファンフィクションを投稿して楽しむ文章共有プラットフォームのワットパッドには、バロンをテーマにした幻想的なおとぎ話が盛りだくさんだ。

「そうした物語や、そこに投稿されたコメントの多くを見れば、彼をある種の悲しみをたたえた少年として描くことで、他のトランプ一族とは一線を画する存在にしようとの動きが見て取れる」と、ファンコミュニティーを研究するニューヨーク工科大学のジェシカ・ハウチ教授は言う。

「バロンはトランプ家の他の面々ほど政治に積極的ではなかったので、恋愛相手の王子様的な役を当てはめられる。ヒロインが恋に落ちる金持ちの少年は、その家柄や父親の地位のせいで抑圧されている......というファンタジーだ」

その意味では、ファンフィクション執筆者もドナルド・トランプ君主制主義者も、バロン・トランプについて私たちが本当に知っている唯一の事実にこだわっている。重圧のかかる環境で常に監視の目にさらされた18歳ならほとんど誰でもそうであるように、彼も謎の存在だということだ。

バロンは今秋には大学に進学することになる。そこで高度な学問に触れて社会的変化を味わい、指導教授の監督を受けるも両親の監督から解放されるという環境で、自分自身をより理解するだろう。

その後、彼にとっての政治とはどうなるのだろうか。正式な社会デビューを計画しているのだろうか。大統領職を夢見ているのか、それともマールアラーゴの金ぴか御殿で静かな生活を望むのか。

誰にも分からないが、だからと言って私たちが、ちょっと先の大人バロンについて好き勝手に妄想することは、もう止められない。

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