台北市の地下鉄駅(2022年) Hesther Ng / SOPA Images/Sipa US via Reuters
<周囲の乗客2人に刃物で切りつけ、乗客たちによって取り押さえられた男は、事件時には「とても気分が悪かった」と供述>
台湾中部の台中市を走る地下鉄の車内で男がナイフを振り回し、居合わせた乗客たちに取り押さえられる事件が起きた。当局によれば取り押さえられた男は、2人の乗客を「切りつけた」という。ナイフを手に突進してくる男を、周囲の乗客たちが果敢に押さえつけたり、殴りつけたりする衝撃的な現場の様子は携帯電話で撮影されており、SNSで拡散されている。
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容疑者は、「ハン」という名字だけが明らかにされた20歳の男で、その場で拘束されたと、台中市政府警察局は発表した。ハンと、被害に遭った17歳と27歳の男性乗客は、ナイフによる傷に関して治療を受けている。
複数の負傷者が出たのは、台中市内を走る地下鉄「台中メトロ」の車内でのこと。台中市政府消防局によると、同局には5月21日午前11時17分(現地時間)に通報が入った。文心桜花駅を出た車両が、市政府駅に到着した直後だった。
17歳の乗客は、胸、肩、腕を刺されて入院。27歳の乗客は、頬と顎に6インチほど(約15センチ)の切傷を負ったと、消防局は述べた。ハンは、右手の複数の指を切って治療を受けた。
3人目の被害者は軽傷で、入院の必要はなかった、と警察は発表した。
傘で身を守ろうとする人、顔から血を流す人も
目撃者の証言によると、ハンは地下鉄に乗り込むと、すぐさまカバンから中華包丁を取り出し、いちばん近くにいた乗客に襲いかかった。居合わせた乗客に包丁を取り上げられたが、果物ナイフでさらに切り付けた。
スマートフォンで車内を撮影した映像は、ソーシャルメディアのサイトで広く共有され、地元メディアでも大きく取り上げられた。そこには、茶色の上着を着てマスクを着けた男が映っている。目撃者たちは後に、この男が犯人だと確認した。
映像には、傘で身を守ろうとする男性や、容疑者ともみ合って顔から血を流しているように見える人物も映っている。容疑者はさらに、車両の反対側に固まっていた乗客たちのところに向かって行って攻撃したが、出入り口付近で取り押さえられた。
映像では、ドアに押し付けられ、ヘッドロックをかけられたハンの頭を、複数の乗客が握りこぶしで殴る様子が続く。映像には、1本の中華包丁と、少なくとも1本の果物ナイフが何度か映りこんでいたが、本誌は独自の検証はできなかった。
当局の発表によると、回収された刃物は合計3つだ。血痕の残る車内からは、果物ナイフがもう1本見つかった。
10年前には台湾史上最悪の地下鉄内ナイフ殺傷事件が発生
台中市政府警察局の李文章局長は市議会に対し、ハンには精神疾患の病歴があったと述べた。当局によると、ハンは、事件時には「とても気分が悪かった」と自供したという。いまのところ動機は不明で、台中市政府警察局にコメントを求めたが、返事は得られていない。
台中市は、台湾で地下鉄が開通した5番目の都市で、開業は2021年。台中メトロは同市唯一の地下鉄だ。地下鉄を運営する台中メトロによると、市政府駅では乗客を避難させ、いまも一般の立ち入りが禁止されている。また、車内の緊急ボタンが作動しなかったという報告があり、こちらも調査中だという。
台湾の公共交通機関では、ナイフによる殺傷事件や暴力犯罪は滅多に起きず、金属探知機も設置されていない。しかし、主要な駅のほとんどでは、スタンガンと催涙スプレーを携帯した警備員がパトロールを行っている。台中市で起きたこの事件を踏まえて、首都圏で運行する「台北メトロ」も、首都圏の地下鉄駅で警戒を強化するよう指令したと発表した。
いまからちょうど10年前の2014年5月10日には、台湾史上最悪の地下鉄内ナイフ殺傷事件が起きている。混雑した地下鉄の車内で、当時21歳の男が刃物を手に乗客に襲いかかり、4人が死亡、24人が負傷した。犯人は、2年後の2016年に死刑に処せられた。
ハンの動機は不明だが、台湾メディアは、今回の傷害事件と10年前の台北メトロ殺傷事件を関連付けて報じている。警察によると、台北メトロ殺傷事件の犯人も、精神疾患の病歴があったようだ。台中市当局は、模倣犯罪の可能性も排除できないと述べた。
(翻訳:ガリレオ)
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