ロシア軍による攻撃を受け、消火活動にあたるウクライナのレスキュー隊。電力設備への攻撃で大規模な停電被害が起きている=ウクライナ北東部スムイ州で5月7日、Latin America News Agency・ロイター

 ウクライナへの侵攻を続けるロシアが、発電所などエネルギー関連施設を狙った攻撃を激化させている。その中で、原子力発電所は攻撃を受けない「聖域」のようになっており、ウクライナの原発依存度は高まっている。露軍の狙いはどこにあるのか。【ブリュッセル宮川裕章】

 ロシアは3月以降、ウクライナのエネルギー関連施設への攻撃を再び拡大している。露軍は5月8日、ミサイル約50発とドローン約20機を使い、南部ザポロジエ、西部のリビウ、イワノフランコフスクなど各州の火力発電所や変電施設など10カ所以上を集中攻撃した。

 ウクライナの電力大手DTEKは14日、同社の発電能力の約9割が失われたと発表。電力需要期の冬に向けて復旧を急ぐと表明した。

「露軍は攻撃対象を切り替えた」

 ウクライナのシンクタンク、キーウ経済学院(KSE)研究所のボリス・ドドノフ・エネルギー気候変動研究センター長は「露軍は当初、前年と同様に高圧送電施設を中心に攻撃していた。だが成果が上がらないとみると、攻撃対象を発電施設に切り替えた」と分析する。米議会による追加軍事支援の決定の遅れなどが影響し、弾薬不足に陥ったウクライナ軍の防空システムが手薄だったことも被害を拡大させたとみられる。

 一方、ロシアのインフラ攻撃は、攻撃が集中する時期と弱まる時期を繰り返す傾向がある。KSE研究所のユリア・パビツカ経済制裁研究長は「露軍は2年以上続く戦争で、侵攻前に備蓄したミサイルのほとんどを使い果たした。攻撃が断続的なのは、長距離ミサイルの製造と補充に時間がかかるためだ」と指摘する。

 直近では、電力需要の大きい冬季に攻撃が少なかったことで、電力不足は軽減された。それでも、ドドノフ氏は「破壊された施設には修復が困難なものや時間がかかるものが含まれ、次の冬には国民が被害を実感することになる」と予想する。

原発攻撃は控えているロシア

ウクライナ西部にあるリウネ原発=リウネ州バラシュで2023年2月5日、宮川裕章撮影

 ウクライナでは現在、露軍が占拠するザポロジエ原発を除く国内3カ所の原発が攻撃を受けずに稼働を続けている。ドドノフ氏は「原発の破壊で生じる放射性物質がロシアへ到達するのを懸念し、露軍は攻撃を控えているのだろう」と語る。電力供給の原発への依存率は侵攻前の50%から60%近くまで上がっている。火力や水力の発電所が破壊されたことで、さらに依存は強まりそうだ。

 また、ウクライナのエネルギー省は13日、ルーマニア、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、モルドバの近隣5カ国から、電力を輸入する方針を決めた。

分散型発電がエネルギー安保の鍵

 今後、ウクライナの電力供給を安定させる鍵を握りそうなのが、防空システムの配備だ。ウクライナ政府は、重要施設の防衛のため米国製防空システム「パトリオット」が最低7基は必要だとして、支援国に供与を求めている。現在、北大西洋条約機構(NATO)などで調整中だが、実現すれば被害は和らぐ可能性がある。ただ、今後も原発への攻撃が実施されない保証はなく、綱渡りの電力供給が続く。

 ドドノフ氏は「太陽光や風力など出力の少ない発電施設を大量に分散させて建設することが、これからのエネルギー安全保障で重要になる」と指摘する。

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