プーチンとの会合に臨むショイグ前国防相(左)とベロウソフ新国防相(5月15日) VYACHESLAV PROKOFYEVーPOOLーSPUTNIKーREUTERS
<異例の国防相人事は戦争の長期化を見据えたプーチンの戦略>
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5月14日、かつて経済担当の大統領補佐官を務めたアンドレイ・ベロウソフを国防相に任命した。 ウクライナ戦争の長期化を見据えて、ロシア経済が戦時体制を敷いていることを示す最新の兆候とみられる。
直近まで第1副首相の座にあったベロウソフを国防トップに据えるこの人事は、プーチンの通算5期目の大統領就任に合わせた内閣改造の一環として行われた。これに伴い、前任のセルゲイ・ショイグはロシア国家安全保障会議の書記に任命された。
ベロウソフは、戦争関連の支出が国家予算のほぼ3分の1という記録的な軍事費増大の最中に国防省の指揮を担うことになる。軍事畑のバックグラウンドを持たない経済学者で、プーチンの取り巻きの安全保障タカ派に属するわけでもない人物を戦時中に国防トップに抜擢するというプーチンの決断は、多くのアナリストを驚かせた。
ベロウソフの起用は、3年目に突入したウクライナ戦争の先行きに関するロシア政府の見解を物語っていると、ロシア安全保障の専門家マーク・ガレオッティは指摘する。「ロシアが守りを固めつつあるのは明らかだ。消耗戦になるため、国家資源を集中させる必要がある」
第1副首相時代のベロウソフは、ウクライナ軍に甚大な打撃を与えるドローン(無人機)の国内生産を強化する取り組みを監督していた。
政府の説明では、プーチンが文民エコノミストを国防相に抜擢したのは、防衛予算をより広範な経済の一部に組み込み、イノベーションを促進する効果を期待しているためだ。「現代の戦場ではイノベーションに寛容な者が勝者となる。文民が国防省を率いるという大統領の判断は、現時点では自然なことだ」と、大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は語った。
戦時下での国防相の任務は、将軍たちが必要とするリソースを確実に用意することだ。この責務を果たすには「会計監査役と政治的提唱者」の両面が必要で、「ベロウソフはまさに適任だ」と、ガレオッティは言う。
ロシアの支配層は大きく2つに分類される。1つは安全保障部門から抜擢されたタカ派。もう1つは国際的孤立と金融制裁の渦中でロシア経済を守ってきたテクノクラート(技術官僚)である。
ベロウソフはこの2つの世界にまたがる存在とみられている。ソ連式の教育を受けた経済学者で、2014年のクリミア併合を支持した。熟練のテクノクラートで、政府が経済運営に重要な役割を果たすべきと考える国家主義者でもある。
「彼は常に奇妙な組み合わせを持ち合わせていた」と、20年前からベロウソフを知るシカゴ大学の経済学者コンスタンチン・ソーニンは言う。「イデオロギーは旧式だが、方法論は基本的に現代風だ」
クリーンなイメージが強み
ベロウソフは00年、ロシア初のマクロ経済シンクタンク「マクロ経済分析・短期予測センター」を設立した。06年以降は経済発展相などの政府要職を歴任し、プーチンからの信頼も厚いが、知名度が低く権力基盤を持たないため、プーチンを脅かす存在にはならなかった。「プーチンはいかなる形であれ、後継者と目される可能性のある人物を登用しないよう細心の注意を払っている」と、ソーニンは指摘する。
ロシアの政治エリートの間では大規模な汚職が蔓延しているが、ソーニンに言わせれば、ベロウソフは「モスクワ基準」では比較的クリーンだとみられている。この点は、腐敗まみれの国防省を批判してきた愛国的な軍事ブロガーに歓迎される要素だろう。
「大統領に信頼される人物が別の機関から(国防相に)任命されることで、腐敗で結び付いた省内の硬直化したシステムは崩壊するだろう」と、国家主義者のブロガー、ドミトリー・セレズネフは書いた。「この人事改造が軍事ブロックにおける経済部門の強化を目指したものであることは明白だ」
ベロウソフは昨年、大企業の超過利益への追加課税を提言し、プーチンの署名を経て8月に法制化された。これにより、ロシア経済が戦争で疲弊するなか、30億ドル規模の税収を得ることができた。
一方、10年以上にわたって国防相を務めてきた前任のショイグは在任中、民間軍事会社ワグネルを率いた故エフゲニー・プリゴジンから痛烈な批判を浴びていた。4月下旬には、ショイグの側近のティムール・イワノフ国防次官が収賄容疑で逮捕。この一件は、内閣改造を控えたショイグへの警告と見なされた。
ショイグが国家安全保障会議のトップに任命されたのは、彼のメンツを守りつつ、第一線から退かせたいというプーチンの願望の表れだとロシア人アナリストのタチアナ・スタノバヤは指摘する。「ショイグが友人だからではなく、プーチン自身にとってそのほうが安全だからだ」
スタノバヤの見立てでは、この組織は「適切なポジションはないが、放り出すわけにもいかない」政界の元重鎮を送り込む先になっているという。ドミトリー・メドベージェフ前大統領も20年から同会議の副議長を務めている。
From Foreign Policy Magazine
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