事故死したライシ大統領の葬儀に集まった人々(5月21日) 東アゼルバイジャン州タブリーズ Mehrvarz Ahmadi/dpa via Reuters Connect

<2022年に起きた反政府デモの激しい弾圧で知られたライシ大統領の手は血で汚れていた>

イランのイブラヒム・ライシ大統領がヘリコプターの墜落事故で死亡したことが確認されたのを受けて、ソーシャルメディア上にはライシの死を喜ぶ声を投稿している人々がいる。

保守強硬派でイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の後継者候補と目されてきたライシは、搭乗していたヘリコプターが5月19日に隣国アゼルバイジャンとの国境近くで墜落。イラン国営メディアとモフセン・マンスーリ副大統領がライシの死亡を確認した。墜落したヘリコプターには、ライシのほかにホセイン・アミール・アブドラヒアン外相らも乗っており、あわせて8人が死亡した。

 

悪天候のなか夜間の捜索・救助活動は難航し、翌20日に9人の遺体が発見された。犠牲者はいずれもイラン北部のタブリーズに運ばれる予定だ。

イラン政府は声明を出し、ライシは「勤勉で精力的」な人物であり「国のために命を捧げた」と称賛。さらに、ライシを失っても政権の運営には「いささかの問題もない」と強調した。

だがライシは検察官だった1980年代後半(イラン・イラク戦争の後)に何千人もの政治犯の処刑に関与したとされ、「テヘランの虐殺者」の異名を持つ。陰でその死を喜ぶ者は少なくない。

【動画】抗議者を殴る蹴る、バイクでひく、発砲する...イラン警察の残忍な暴行の現場

Ebrahim Raisi, the President of the Islamic Republic of Iran, known to us Iranians as the Butcher of Tehran, is dead!

He has been killed in a helicopter crash.

Why should I hide my feelings while many young Iranians, especially women who have been wounded during uprisings, are... pic.twitter.com/aRSyimohGm

— Masih Alinejad (@AlinejadMasih) May 20, 2024

「女性・命・自由」デモの参加者らが喜びの舞い

国際的な人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は以前に、当時少なくとも32都市で2800~5000人の政治犯が殺害されたという推定を公表。報告書で「イブラヒム・ライシ大統領を含むイランの現高官と元高官を処刑と結びつける証拠がある」と述べていた。

イランのジャーナリスト兼活動家のマシ・アリネジャドはX(旧ツイッター)への投稿でこのことに言及。「イラン国民の間でテヘランの虐殺者として知られるイブラヒム・ライシ大統領が死亡した!ヘリコプターが墜落したのだ」と書き込み、ライシの死を喜んで踊っている女性たちの動画も共有した。これらの女性の多くは、2022年9月にイランで「女性・命・自由」のスローガンの下に展開された反政府デモに参加していた。

Wounded women dance with the news of Islamic Republic president's helicopter crash.
Sima and Mercedeh, were blinded and lost an arm during the "Woman, Life, Freedom" uprising, are now celebrating the possible death of Raisi, the Butcher of Iran.pic.twitter.com/SZp5VIqEPI

— Masih Alinejad (@AlinejadMasih) May 19, 2024

イラン政府は2022年、服装に関する規定を強化。取り締まりが強化されるなか、少数派民族であるクルド系のマフサ・アミニ(22)が規定に違反したとして「道徳」警察に身柄を拘束され、警察の勾留施設で倒れて3日後に死亡した。

彼女の死を受けて、大規模な抗議デモが発生。イラン当局はデモ隊に向けて実弾や催涙ガスを発射したり、複数のデモ参加者の身柄を拘束したりするなど強硬な対応を取った。

国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは2023年9月に発表した概要の中で、「(イランの)治安部隊は子どもを含む何百人ものデモ参加者を違法に殺害」し、「デモ参加者に向けて金属製のペレット弾を撃って失明」させ、「独断的に何万人もの人々の身柄を拘束」して「さまざまな拷問を行った」と述べた。

ライシの死を受けて複数の人物がアミニの写真を共有し、またほかの者たちはライシの死に関する投稿に「#WomanLifeFreedom(女性・命・自由)」のハッシュタグをつけた。

米ワシントン在住の活動家サラ・ラビアニは、この反政府デモによって死亡した複数の人を紹介する動画を投稿。「アリ・ハメネイとイブラヒム・ライシの犯した罪によって命を奪われた、イランの無数の犠牲者たちに哀悼の意を表明する」と書き込み、さらにこう続けた。「彼らは未来を奪われ、多くの者が最期の時に言葉では言い表せないほどの苦しみを味わった。彼らは英雄としてずっと私たちの記憶に残るだろう」

Tonight, my thoughts are with the countless victims of the Islamic Republic - those whose lives were taken due to the crimes of Ali Khamenei and Ebrahim Raisi.

Their futures were stolen and many endured untold suffering in their final moments. We will always remember our heroes. pic.twitter.com/5MBBWUlyEl

— Sarah Raviani (@sarahraviani) May 20, 2024
 

ソーシャルメディア上に投稿された動画の中には、海外に移住したイラン人たちが英ロンドンなどのイラン大使館の外でライシの死を祝う様子を撮影したとするものもあった。

BREAKING: Iranian diaspora all across the world are taking to the streets, dancing and celebrating the potential death of the puppet president of the Islamic Republic regime Ebrahim Raisi in a helicopter crash. This video belongs to London in front of Iran's occupied embassy. pic.twitter.com/XQ6ujoSP47

— Shayan X (@ShayanX0) May 19, 2024

イラン国内でライシの死を祝って花火を打ち上げている人々を捉えたとする動画も投稿されているが、これは(イスラム教の指導者)故イマーム・レザーの誕生日を祝う様子を撮影した写真の流用だと指摘する声もある。

フーシ派やハマスが相次いで声明発表

ライシの死を悼む声もある。ベイルート在住のジャーナリストであるマルワ・オスマンは、「私たちはアッラーの下に属しており、アッラーの元に戻る」と書き込み、さらにこう続けた。「大アヤトラのアリ・ハメネイ師が率いるイラン国民に、大きな悲しみをもって哀悼の意を表する。イラン国民がこの大きな苦痛に耐えられるよう願っている」

反シオニズムを掲げる一部の人々もライシの死を嘆いている。パレスチナ人の土地の「占領者」であるイスラエルに抵抗するイスラム過激派組織「ハマス」やイエメンのシーア派勢力「フーシ派」の支援は、ライシの指導力の下で行われてきたからだ。

南米を拠点に活動するジャーナリストのベンジャミン・ルービンスタインはライシを「英雄」と呼び、彼は「不朽の存在となるだろう」と述べた。

フーシ派幹部のモハメド・アリ・アル・フーシは「イランの国民と指導部に心から哀悼の意を表する。イランの指導者たちは今後も、国民に忠実に尽くしていくだろう」と述べた。

ハマスも同様に声明を出し、次のように述べた。「イランはアッラーの助けを得て、この大きな喪失を乗り越えていくだろう。親愛なるイラン国民には、この厳しい試練に対処することができる力強い指導部がいるからだ」

イラン憲法第131条は、大統領が死去した場合は最高指導者ハメネイ師の承認を得て、第一副首相が大統領職を継承することを定めている。これによりムハンマド・モフベル副大統領が暫定大統領に就任することになる。


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。