前回大統領選でテレビ討論会に臨んだトランプ(左)とバイデン(2020年10月) MIKE SEGARーREUTERS

<6月と9月にバイデン大統領とトランプ前大統領がテレビ討論会で論戦を交わすことになった。両陣営の思惑と見どころはいかに>

唐突に、米大統領選の候補者討論会の日程が決まった。6月と9月にバイデン大統領とトランプ前大統領が論戦を交わすことになったのだ。ただし、本当に討論会が開催されれば、の話だが。

今年は米大統領選恒例のテレビ討論会が行われないのではないかと言われて数カ月。事態が急展開したのは5月15日午前のことだった。バイデン陣営が6月27日のCNN主催の討論会と9月10日のABCニュース主催の討論会の招待を受諾したと発表したのだ。

トランプ陣営も両方の討論会への参加を表明した(トランプは10月のFOXニュース主催の討論会も受諾したと述べているが、バイデンはFOXの討論会を敬遠するだろう)。

今回の動きで興味深いのは、バイデン陣営の思惑だ。バイデン支持者の間では、トランプが討論会から逃げているというのが定説だったが、実際に参加を渋っていたのはバイデン陣営のほうだった。

トランプはたびたび討論会の開催を呼びかけていたが、バイデンがトランプとの討論会に応じるとようやく表明したのは4月下旬のことだ。

アメリカの有権者がバイデンに関して最も懸念している点は、年齢と認知能力だ。全米の有権者が見ている前でとっさにうまく話せなかったら......と考えると、バイデン陣営にとって討論会に参加することのリスクは極めて大きい。

それでも討論会を実現させたいと考えたのには、理由がある。バイデンは、討論会で失態をさらすリスク以上に深刻な問題を抱えているのだ。

現時点でバイデンは、選挙戦で劣勢に立たされている。

対抗馬であるトランプは、不倫関係にあった元ポルノ女優に口止め料を支払った疑惑に関連した刑事裁判への対応が目下の「本業」と言っても過言ではない。それにもかかわらず、現職大統領が苦戦を強いられているのだ。

バイデンとしては、(裁判所がトランプの刑事裁判の様子をライブ配信でも始めない限り)トランプをテレビカメラの前に引っ張り出して、トランプ前政権に閉口していた理由を有権者に思い出させる必要がある。

そこで討論会に臨もうと考えたのだろう。

6月の討論会がうまくいけば、劣勢のバイデン陣営に弾みがつく。一方、もし9月の討論会で失敗しても、11月の本選挙投票日までには有権者の印象がある程度薄らぐはず。そんな計算がありそうだ。

こうして、第1回のテレビ討論会は、過去の大統領選では例がないくらい早い時期に行われることになった。しかし、6月27日までにはまだ1カ月余りある。その間に、何があっても不思議でない。

実際、討論会の開催要領はまだ決まっていない点が多い。CNNは、6月の討論会をジョージア州アトランタで行い、スタジオには観客を入れないと発表した。

しかし、(不規則発言を防ぐために)発言を指名されていない候補者のマイクを切るかどうかといったことは、明らかにしていない。ABCも討論会の詳細は未定としている。

つまり両陣営とも、さまざまな口実を設けて討論会をキャンセルする余地はいくらでもある。討論会に参加するのが得策でないと判断すれば、相手に責任を押し付けて不参加を決めるかもしれない。

今回、両陣営が手にした成果は、少なくとも選挙戦のある時点で討論会を受けて立ったという事実をつくったこと。ひとまず、臆病者ではないと証明できた、という訳だ。

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