スロバキアのフィツォ首相(59)が15日、政府の会合後、路上で撃たれました。現場で71歳の男が取り押さえられました。

フィツォ首相は、至近距離から撃たれ、腹部と左腕に命中したといわれ、手術は5時間に及んだそうです。
スロバキア・カリニャク副首相:「医療チームが一晩治療にあたり、首相の容体は安定した。現在も容体を回復させるため、処置が進行中であり、状況は非常に深刻である」

フィツォ首相は、去年10月から首相を務めていますが、通算4度目の就任です。元々は、左派の政治家でしたが、ポピュリズム=大衆迎合主義的な政治手法を使いながら、キャリアを積み上げてきました。

スロバキアは、現在、EUに加盟し、NATOにも所属しています。しかし、元々は、チェコスロバキアとして、ソ連の衛星国の一つでした。その影響もあってか、今でもロシアにシンパシーを感じている国民は少なくありません。

去年の総選挙で、フィツォ首相は、ロシア寄りの姿勢とナショナリズムを打ち出し、政権を手に入れています。ウクライナからの避難民や、穀物価格の高騰に対する不満をうまく吸い上げた形です。しかし、先月、突然、方針を180度転換する発言をしました。
スロバキア・フィツォ首相:「ウクライナにおけるロシア軍による武力行使は、明白な国際法違反である」

先月、ウクライナのシュミハリ首相と会談した直後から、ウクライナ寄りの発言をし始めました。それに加え、公共放送の統制強化や、司法改革を検討していて、国論を二分する騒動に発展しています。

今回、拘束された容疑者。地元メディアは、71歳の作家と伝えています。
地元メディア:「この容疑者は、先月、フィツォ首相に抗議するデモに参加し、『ウクライナ万歳』『フィツォはもうたくさん』といった言葉を叫んでいた」

また、スロバキアの内相は「ウクライナへの軍事支援の廃止、公共放送への介入など、政府の政策に反対し、首相暗殺を決意した。グループには所属せず、単独犯だった」と犯行動機を説明しました。

同じ文学クラブに所属していた人は「容疑者とは、この5年、会っていない」と説明しています。
元文学クラブ仲間:「彼の詩はリベラルでしたが、誰かを名指しで非難するのもではなかった。特定の政党を批判するものでもなかった。全体として社会システムに対する反抗意識はあったと思う。彼の詩を読むと、何かに満足していなかったのは読み取れました。本当に普通の人でした。作品を書いたり、自分たちの作品について話し合ったり」

◆スロバキアを取り巻く状況をみていきます。ヨーロッパ政治に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授さんに聞きました。

廣瀬教授は「スロバキアについて、ウクライナ侵攻で、より一層、政治的に混乱した国。ウクライナ支援によって、エネルギー問題、経済低迷で国民の生活がひっ迫した。国民の不安をあおる“ポピュリズム”が浸透し、フィツォ政権が誕生した」といいます。

“ポピュリズム”とは何なのか。
廣瀬教授は「ポピュリズム=国民が喜ぶ政策を掲げる大衆迎合主義。ポピュリズムが進むと、反対言論も強まり、分断が生まれやすい。言論弾圧につながり、権威主義、反民主主義にもつながる」といいます。

こうした流れはスロバキアだけの問題ではありません。ヨーロッパでは、極端な“自国優先”を掲げる政権や政党が、各地で台頭しています。

ウクライナ侵攻が起きた2022年以降、フィンランドでは、議会選挙で“反EU・反移民”の右派・フィン人党が連立政権に。イタリアでは、2022年10月、右派連立政権樹立。メローニ首相が就任しました。
スロバキアを含め、こうした3カ国は、右派に政権交代しました。さらに、フランス、ドイツ、ポルトガル、オランダでも、右派政党が台頭しています。

ヨーロッパで“自国第一主義”が広がる背景について、廣瀬教授は「“生活への不満”がある。ウクライナ支援、エネルギー問題などにより生活が困窮。長い間、移民問題は欧州の筆頭課題。ポピュリスト政権は“移民に雇用が取られる”と国民に信じさせて、扇動して分断させた可能性がある」と指摘しています。

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