ガザを見下ろす丘に上る「メルカバ」(2024年2月6日、イスラエル南部) Matrix Images / Jim Hollander
<ガザ南部ラファに本格侵攻するとき、イスラエル軍はありとあらゆる最新鋭兵器を投入するとみられる。なかでも世界屈指の破壊力を誇るとされるのが、主力戦車「メルカバ」だ>
イスラエル軍は、現在準備を進めているとみられるガザ南部ラファへの本格侵攻にあたって、世界屈指の破壊力を持つ主力戦車「メルカバ」をはじめとする最新鋭の火砲や兵器を使用する見通しだ。
イスラエル軍は先週、「ハマスのテロリストを排除するための対テロ作戦」の一環として、メルカバ2両がラファに入る画像をインターネットに投稿した。
A precise counterterrorism operation to eliminate Hamas terrorists and infrastructure within specific areas of eastern Rafah began overnight, based on intelligence. pic.twitter.com/L2uVEdCVv9
— Israel Defense Forces (@IDF) May 7, 2024
【動画】イスラエルの主力戦車「メルカバ」の特殊設計や対戦車ミサイル防護システムを見よ
1970年代にイスラエルで開発されたメルカバ(ヘブライ語で「神の戦車」の意)は、乗員の防護を何より優先する設計になっており、イスラエル軍にとって欠かせない資産へと進化してきた。1982年のレバノン内戦で初めて実戦に投入され、ベッカー高原で旧ソ連軍を撃破した。
軍事専門家や専門誌は一貫してメルカバを「世界で最も高度な機能を持つ装甲車両」の一つと評価しており、イラク戦争など最近の複数の紛争で米軍の主力戦車として活躍している「M1エイブラムス」に匹敵するとしている。
イスラエルの防衛・安全保障アナリストであるヤーコブ・ラッピンは、イスラエルの安全保障上の課題を研究するシンクタンク「アルマ研究教育センター」のブログに最近行った投稿の中で、「ガザでの戦争は都市環境における装甲部隊の適応力を示しているだけでなく、ウクライナ戦争で数多くの戦車が破壊されて広まった『戦車は時代遅れ』だという見方を大きく覆している」と述べた。
対戦車誘導ミサイルも撃ち落とす
イスラエル軍は2004年以降、メルカバMk.4を主力戦車としてきた。この第4世代モデルは車体前部にエンジンが搭載され、前方から攻撃を受けた際に(エンジンを防御材の一部として利用することで)乗員を守ることができるようになっており、車体後部が兵員用コンパートメントになっているのが特徴だ。
メルカバは最大8人の兵士を乗せることができ、電動式の砲塔と電磁的脅威を検知できる高度な防護装置も備えている。またメルカバには対戦車誘導ミサイルを迎撃するアクティブ防護システム(APS)「トロフィー」が装備されている。世界でも実戦でその効果が実証されているAPSは「トロフィー」だけだ。
「トロフィー」はイスラエルの軍需企業ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズとイスラエル・エアロスペース(IAI)傘下のエルタ・グループが共同で開発。4本のレーダーアンテナと射撃統制レーダーを備え、対戦車誘導ミサイルやロケット弾のような潜在的脅威を追跡できる。
脅威を検知すると、「トロフィー」が迎撃弾を発射してそれを無力化する。
ラッピンによれば、「トロフィー」を装備することで、イスラエル軍の戦車は人口が密集している都市部の戦闘区域でハマスの防衛線や対戦車待ち伏せを突破することができる。
「全体として、ガザでの戦車およびトロフィーシステムの使用体験は、ウクライナでの装甲車両の使用体験とは対照的だ。ウクライナでは、ロシア軍の戦車が対戦車ミサイルなどの対装甲兵器の攻撃で深刻なダメージを受ける例が多くある」と彼は記している。
イスラエル軍は先週、ガザ南部とエジプトの境界に位置し、また人道支援物資の重要な通過地点でもあるラファに向けて進軍を開始した。これは本格攻勢の開始に向けた動きとみられるが、イスラエルの主要な同盟国であるアメリカは、ラファへの侵攻に反対している。ラファには100万人超のパレスチナ人が避難しているからだ。
「戦後計画」がなければ勝利は一時的
元米海兵隊中佐で現在はジョージ・ワシントン大学で教壇に立っているマイケル・パーセルは、ラファでの「メルカバ」の使用は、ハマスを通常の戦闘に追い込みたいイスラエル軍の戦略の一環だと指摘した。
「だがアントニー・ブリンケン米国務長官や多くの軍事アナリストは、この戦略が通用するとは考えていない」とパーセルは言う。「彼らは、戦闘終結後に関する効果的な計画がないままで、分散化されネットワーク化されたハマスに対して従来型の軍事的勝利を挙げたところで、それは一時的な戦術的利益にしかもたらさないと考えている」
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