依然として、歴史的な円安が続く日本。円安は、一部の企業に好決算をもたらす一方、深刻な負の側面が見えてきました。

過去最高益

トヨタ自動車・佐藤恒治社長(5月8日)「これほど車を作ってお客様にお届けして、ということが、こんなにありがたいことだと―」

5月8日、昨年度の連結決算を発表したトヨタ自動車。売上高は45兆円を超え、営業利益も5兆3500億円に達するなど、いずれも過去最高を更新したのです。

好調な実績の背景には、ハイブリッド車など新車の販売増に加え、円安によって、営業利益が押し上げられたことがあります。

歴史的円安の影響

こうした円安がもたらす恩恵の一方で…

最大10連休といわれた今年のゴールデンウィーク最終日、帰国した人々が口をそろえてぼやいたのも、やはり円安。

(ロンドンなど10日間旅行)「ロンドンはすごく高かった。(フィッシュ&チップスが)飲み物なしでポテトとフライで1人4000円くらい」

円安に打撃を受けたのは旅行者だけではありません。

外国人労働者にも円安の影響

フィリピンから、日本に働きに来ている女性のもとを訪ねると…。

フィリピン人女性・ヘイゼルさん(29)「毎年円もずっと安くなっているから、ちょっと大変。生活の方がもうお金も足りない」

2年前から、家事代行の仕事をするフィリピン人のヘイゼルさん。月収はおよそ20万円、そこから毎月5万円以上をフィリピンの家族に仕送りしています。ところがこの円安で送金額が大きく目減りしたのです。

ヘイゼルさん「円も今年、全然安くなったから5万円では全然足りない」

この会社の家事代行スタッフは現在およそ120人で、全員がフィリピン人。円安の影響で退社する人も出てきているといいます。

ピナイ・インターナショナル 茂木哲也代表取締役「円安が進んでいる中で、単純に仕送りできる額が、同じ働きをしても減ってしまう。もっと貨幣価値の高い所、例えばカナダとかオーストラリアに転職するということで辞めて行かれる方も、ちらほら出てきている」

為替介入も…

こうした円安をなんとか食い止めようと、政府・日銀は先日、為替介入を行ったとみられますが、その効果も一時的。円安傾向に歯止めがかかりません。

国力の低下

そもそも、円が安いということは、日本の国力の弱さを示している、との見方もあります。実際、今月の企業の決算会見でも、経営者からは…

丸紅・柿木真澄社長(5月2日)「為替というのは国力を体現しているものでもありますし、やっぱりこれだけ円安が進むということは、日本の体力が落ちてきている」

三菱商事・中西勝也社長(2日)「円は国力を表すので、円安が進むと国力が弱くなる側面もある」

かつて世界第2位の経済大国と謳われた日本。ところがバブル崩壊後、失われた20年、30年という歳月を経て、日本経済の地盤沈下が顕著となります。

GDPで抜かれていく

その例としてあげられるのが、日本のGDP=国内総生産。日本は、すでに中国に抜かれ、さらに去年、ドイツにも抜かれました。

「経済大国日本というのは当たり前の話で。4位は許せない」

おちていく日本の国力。

去年、ドイツに抜かれた日本のGDP。来年にはインドにも抜かれる見込みで、一人あたりGDPに至っては、G7で最下位となる世界34位にまで後退しています。

国力低下の背景

そんな日本の国力低下は、人々の暮らしからも垣間見えます。労働者の実質賃金は一向に上がらず、今年3月までで過去最長となる24か月連続で減少。こうした状況に至った背景を、専門家は…

加谷珪一さん・経済評論家「90年代になって世界経済のルールがガラッと変わるんですね。グローバルに事業を展開しましょうということが一つと、IT化・デジタル化。日本企業の多くがこの動向を見誤って、80年代までの物作りのやり方に固執してしまった、というのが最大の失敗の要因」

日本はグローバル化の中、これまで利益を上げてきた製品について、アジア各国との激しい低価格競争にさらされます。

また80年代、日本が世界をリードしていた半導体分野でも、これまでの製品分野にこだわり、高付加価値の先端分野への投資がおろそかに。

日本の取るべき道は

いずれも、これまで売れた製品、過去の成功体験にこだわるあまり、新しい時代への対応につまづいたといいます。そんな日本が今後、取るべき道について加谷さんは…

加谷珪一さん・経済評論家「一つは日本は元々物作り工業国ということで、工業をちゃんと復活させて 立て直す、工業製品で高いシェアを維持してやはりボリュームを追求する。 もう一つは人口が減ってくると、サイズはコンパクトになりますが、内需を活発にして豊かな国を目指す。この二つはかなり方向性が違いますから、 ここは日本人の選択なのかなと…」

円安によって明らかとなった日本の国力低下という現実。私たちはそれをどう受け止めていけばいいのでしょうか-

(「サンデーモーニング」2024年5月12日放送より)

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