タイの若者たちの間で広がる錠剤型の覚醒剤「ヤーバー」=三留理男撮影

 酒、たばこ、薬物――。

 依存性の高い代表格として挙げられるこの三つ。これらに手を伸ばそうとする時、健康への影響も考慮されるだろうが、まず考えるのは合法かどうか、そして価格だ。

 タイで薬物問題を長年取材してきた地元の男性記者(41)は、そう強調する。それから少し黙った後「でもね……」と続けた。

 「価格に差がなくなった時、何が起こると思う?」

 タイでは今、これらの価格差に異変が起きている。350ミリリットル入り缶ビールは1本40バーツ(約168円)、たばこは安いものなら1箱70バーツ(約288円)だ。一方、覚醒剤の価格は急落。錠剤型の覚醒剤「ヤーバー」は1錠35バーツ(約147円)で手に入るようになり、ビールの価格を下回った。

 ある捜査関係者によると、タイではこれまで、長距離トラックの運転手や夜勤の仕事をする人たちらの間で違法薬物が広まっていた。ところが、学生でも簡単に手の届くような価格となった結果「ちょっと試してみようかな」と安易な気持ちで手を出す若者が急増しているという。

 前出の男性記者は話す。「薬物の価格が暴落すると、合法かどうかは問題視されなくなる。それが今、タイで起きていることだ」

【バンコク石山絵歩】

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