ウクライナの兵士がドネツク地方のロシア軍に向けて榴弾砲を発射(2024年5月) REUTERS/Valentyn Ogirenko
<米議会で軍事支援が決まったが圧倒的に砲弾が足りない。防衛戦を強いられ、兵力補充が追い付かない恐れも>
米議会は4月23日、数カ月に及んだ論争を経て、ウクライナへの約608億ドル規模の軍事支援を含む緊急予算案を可決した。しかし、欧米各国はNATO標準弾を増産しているが自国の武器庫も補充しなければならず、ウクライナは今年の大半を通じて弾薬数でロシアに圧倒される可能性が高いと、当局者やアナリストはみている。
ウクライナ軍の砲弾発射数はここ数カ月で1日2000発を下回っているとされ、ロシア軍に対する防衛戦を辛うじて維持している状態だ。
「問題は、世界中で砲弾の不足が深刻なことだ」と、ウクライナのオレクサンドラ・ウスチノワ議員は言う。「ヨーロッパは100万発を提供すると言ったが、実際に提供されたのはその30%にすぎない。アメリカは弾薬の備蓄が尽きつつあり、さらにはイスラエルにも供給している」
緊急予算案の成立により、バイデン米政権は米軍の即応態勢を損なうことなく、ウクライナに砲弾を送る余裕が生まれるだろう。米国防総省は予算案の成立直後に、大砲、ロケット弾、大量の車両を含む総額10億ドルの軍事支援を発表した。
ただし、アメリカは今年の大半をかけて、まずは自国の備蓄をウクライナ開戦前のレベルに回復させるだろう。米陸軍は来年末までに現在の3倍を超える月10万発の砲弾の増産を目指している。
大西洋を隔てたヨーロッパの備蓄は空っぽだ。EUは今年3月までに100万発の砲弾をウクライナに届けるという目標を掲げていたが、実際に供給したのは約半分で、年末までに年産140万発の態勢になる見通しだとしている。
ウクライナを支援するヨーロッパ諸国はウクライナ軍の砲身を冷やさないように砲弾をかき集めようとしており、EU域外からの調達を模索している。
チェコはNATO標準の155ミリ砲弾50万発などを欧米以外から調達できるとして、各国に購入資金の拠出を求めた。約20カ国がこれに応じ、チェコは最初の砲弾をウクライナに届けるプロセスに入ったようだ。エストニアも同様に、砲弾やロケット弾の調達のめどがついたとして、各国に資金の拠出を募る意向を示している。
攻撃を行う余裕はない
古い砲弾を修理調整すれば新品を購入するより約30%安くなると、ヨーロッパの当局者は語る。ただし、古い砲弾は旧ソ連衛星国から調達する分が多く、彼らは決してロシアの機嫌を損ねたくない。
「ウクライナ側は今後12カ月間で、月に7万5000~8万5000発を発射できるだろう。1日2400~2500発の計算になる」と、英国際戦略研究所のフランツシュテファン・ガディは言う。
ガディによれば、これはウクライナがロシア軍との防衛戦を維持するために必要な最低限の量だ。「今年は攻撃作戦を行う余裕はない」
共和党のJ・D・バンス上院議員は4月にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、そもそもアメリカには「ウクライナが戦争に勝つために必要な量の兵器を製造できる生産能力がない」と主張した。ウクライナ支援に批判的な米議員は今後もその主張を強めるだろう。
一方、ロシアは今年中に350万発の砲弾を製造できる見込みだ。生産能力を一気に増強し、年末には450万発に届くという分析もある。
ただし、ロシアの生産能力は上限に達しつつあるのではないかともいわれている。兵器工場は既に24時間体制で、ロシアが必要とする砲弾を生産するためには工場を新たに建設しなければならないだろうと、ヨーロッパの当局者はみている。ロシアは北朝鮮やイランからも調達しているが、古すぎて誤射を招きかねない砲弾も含まれている。
来年の初めまでに欧米の兵器工場でかなりの量の砲弾を生産できるようになり、ウクライナ軍が再び前線で戦えるようになるだろうと期待されている。現在は弾薬不足を補うために、ゴーグルや画面を通してドローン(無人機)の目線で操縦する一人称視点(FPV)のドローンを投入しているが、妨害装置で破壊される可能性があり、夜間は飛行できない。
ウクライナは高性能の榴弾砲をより多く手に入れて、数の劣位を打ち消そうとしている。榴弾砲は全長約960キロにわたる前線でロシアの攻撃を食い止めるために重要な防衛兵器ともいわれている。
頼みの綱はクラスター弾
「ウクライナは基本的に、今年は防衛に全力を注いでいる」と、ある議員補佐官は戦場の状況について匿名を条件に語った。「クラスター弾は......彼らが部隊を集結させようとしている今、トップ5に入る強力な防衛兵器だ」
なかでもDPICM(二重用途改良型通常弾)は通常の砲弾の約4~5倍の殺傷力があると、この議員補佐官は言う。米軍には冷戦時代から引き継いだ約300万発の備蓄がある。バイデン政権はさらに5億ドル相当のDPICMをウクライナに供与する権限を持っており、近く供与が承認される見込みだ。
ただし、DPICMは「不発」になる確率が高い。発射されたときに必ず爆発するとは限らず、取り残された不発弾はしばしば民間人の命を奪うことになる。
米国防総省は、バイデンが2月にウクライナへの陸軍戦術ミサイル(ATACMS)の供与を承認し、4月に供与したことを明らかにした。
もっとも、欧米の兵器工場は自国とウクライナがそれぞれ必要とする兵器を供給するために、増産態勢に入ったばかりだ。ウクライナは、ここ数カ月と同じように今年の残りの大半を通じて、防衛の要塞を築くことになるだろう。これらの要塞が、昨年にウクライナの反撃を鈍らせたロシアの多層的な防衛網ほど効果的なものになるかどうかは、まだ分からない。
「ウクライナは多重防御を築いている」と、昨年11月にウクライナを訪れた米外交政策研究所ユーラシア・プログラムのロブ・リー上級研究員は言う。「問題は、人手不足と弾薬不足を同時に抱えていることで、それがさまざまな問題を生んでいる」
さらに、兵器の増産が進むにつれて、ウクライナは補充が追い付かないほど兵力を失うことになるかもしれない。「防衛産業への投資が必要だと(ウクライナの)人々が理解するまでに2年かかった」と、ウスチノワ議員は言うが。
From Foreign Policy Magazine
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