昨年4月に中国を訪問して首脳会談を行ったマクロン(左)と習 LUDOVIC MARINーPOOLーREUTERS

<中国と欧州の関係悪化の最大の要因は、ロシアのウクライナ侵攻。欧米の企業がロシア市場から手を引くなかで、中国は穴を埋めるように取引。欧州諸国の中国に対する姿勢も様変わりだ>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が5月5~10日にかけて、フランス、セルビア、ハンガリーの欧州3カ国を歴訪している。コロナ前の2019年3月以来の欧州訪問だが、この5年間に世界は大きく変わり、ヨーロッパ諸国の中国に対する姿勢も様変わりした。

習が前回のヨーロッパ訪問で達成した最も際立った成果は、イタリアがG7諸国で初めて中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に参加したことだった。しかし、イタリアは昨年12月、触れ込みどおりの経済的な恩恵が得られていないことを理由に、一帯一路から離脱した。

地政学的・経済的対立の激化に伴い、ヨーロッパ諸国の対中感情は悪化している。中国とEUは20年12月、包括的投資協定の締結で大筋合意に達したが、この協定は発効していない。

21年5月に欧州議会が協定の批准に向けた審議を凍結したためだ。これは、新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐるEUの対中制裁に対して中国が報復措置を取ったことを受けた対応だった。この一件以降、経済分野での中国とヨーロッパの緊張は高まるばかりだ。

それまで経済が中国とヨーロッパを結び付ける接着剤になっていたが、状況は変わった。EUは、中国からヨーロッパへの投資を厳しい目で精査するようになっている。

もっとも、中国とヨーロッパの関係を悪化させている最大の要因は、22年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻である。中国はこの戦争で中立の立場を表明しているが、ロシアとの間で高官レベルのやりとりを続けていることを考えると、中国政府がどちらに肩入れしているかは明白だ。

加えて、ウクライナ侵攻を受けて欧米などの企業がロシア市場から手を引くなかで、中国はその空白に付け込もうとしている。ロシアからのエネルギー輸入を増やしたり、民生用と軍事用の両方に用いることのできる製品をロシアに積極的に輸出したりし始めているのだ。

ウクライナ問題は、習の欧州歴訪、とりわけフランス訪問の際に大きなテーマになるだろう。

フランスでは、中国とEUの間のさまざまな懸案について厳しい話し合いが行われる可能性が高い。それに対して、フランス訪問の後は、中国に対してまだ比較的好意的な国であるセルビアとハンガリーへの訪問が待っている。

セルビアおよびハンガリーとの間では、中国からの「ご褒美」として投資の約束やそのほかの合意が結ばれることになるだろう。しかし、フランスで大きな成果があると予想する人はほとんどいない。

中国が最も望むのは、マクロン仏大統領が昨年4月と同様に、ヨーロッパの戦略上の独立を宣言することだろう。このときマクロンは訪中から戻った後、ヨーロッパが対中政策に関してアメリカと一線を画する権利を維持すべきだと実質的に主張した。

中国としては再び同様な発言を引き出したいところだが、当時とは状況が違う。いま中国とEUの間に存在する懸案の多くは、ヨーロッパ諸国の国内で高まっている不安に根差している。しかも、中国政府にとってとりわけ厄介なことに、ヨーロッパの産業界が中国への警戒を強めている。

それに、習は欧州歴訪から帰国して程なく、ロシアのプーチン大統領を北京に迎えて首脳会談を行うと報じられている。それを知っていて、EUの首脳たちが習との蜜月を演出することは考えにくい。

From thediplomat.com

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