コロンビア大学に突入した警察 DAVID DEE DELGADOーREUTERS

<全米の大学に広がるイスラエルへの抗議運動、言論の自由を軽んじ警察に介入を求めたコロンビア大学学長の罪の重さ>

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃に対する抗議運動が全米の大学で広がるなか、4月30日、ニューヨーク市の名門コロンビア大学のネマト・シャフィク学長は驚きの決定を下した。ニューヨーク市警に抗議デモの強制排除を要請したのだ。

エリック・アダムズ市長が同大の抗議デモは「外部勢力に乗っ取られている」と声明を出し、「事態が悪化する前」に退去せよと学生を脅した後、100人を超える警官がキャンパスに突入。非暴力の抗議を行っていた学生100人余りを拘束した。強制排除は4月18日以来2度目だ。

大学当局がメディアを閉め出したため、現場を取材できたのは学生記者だけだった。

彼らによれば、警察はデモ隊が30日未明に占拠した校舎「ハミルトン・ホール」に銃を構えて突入し、催涙ガスを使用し、学生たちを力ずくで引きずり出した。結果、少なくとも1人の学生が意識不明に陥ったという。

シャフィクは5月15日に予定される卒業式の少なくとも2日後まで、構内に警官を常駐させるよう市警に要請した。大学の広報担当は「ハミルトン・ホールが占拠され、破壊され、封鎖されたと聞いた以上はほかに選択肢はなかった」と、声明で述べた。

4月、下院で「反ユダヤ主義への対応」を説明するシャフィク KEN CEDENOーREUTERS

選択肢がなかった?

選択肢ならいくらでもあった。シャフィクが警察に2度目の介入を要請する数時間前に、ロードアイランド州のブラウン大学はある発表を行った。学生側はかねてイスラエルを支持する企業に大学の基金を投資することをやめるよう求めており、理事会がこの提案の採決に同意したのだ。

学生新聞ブラウン・デイリー・ヘラルドによれば、学生側の提案は2020年に大学の「投資慣行における企業責任に関する諮問委員会」が「イスラエルによるパレスチナ占領を助長する企業」を特定し、投資の引き揚げを勧めたことに基づいている。

理事会の譲歩を受け、学生たちは抗議運動のために設置したテントを速やかに撤去することに同意した。

実はブラウン大学のクリスティーナ・パクソン学長は、全米を席巻する学生逮捕の動きを率先して進めた人物。昨年12月以来、非暴力の抗議運動を行っていた同大の学生61人を逮捕させた。

だがパクソンには、警察による報復行為をエスカレートさせないだけの分別があった。シャフィクと違ってパクソンの名前を報道で見ないのは、この分別のおかげだ。

キャンパスに野営しガザとの連帯を訴えたブラウン大学の学生たち ANIBAL MARTELーANADOLU/GETTY IMAGES

ヒントはカリフォルニアにもある。カリフォルニア大学アーバイン校でも学生が構内で野営をして抗議運動を行っており、警察による掃討は近いと思われた。付近では警官が、暴徒鎮圧用の装備を整え待機していた。

だが警察権力を盾に取ったシャフィクとは対照的な道を、カリフォルニア大学アーバイン校は選んだ。「わが校は全ての学生が、合法的な抗議運動を含め自由な言論と表現を行う権利を尊重する」と、声明を出したのだ。

言っておくがカリフォルニア大学は州立だ。州立大学はコロンビア大学のような私学よりも、警察の介入を防ぐのが難しい。

大統領にも責任はある

実際アーバイン市は事態に介入した。大学当局が声明を出して間もなく、ファラー・カーン市長はこう宣言した。「警察にはお引き取りを願う。学生が平和的に集まり抗議運動を行う権利へのいかなる侵害も、私は認めない」

市長は警察に撤退を求め、彼らはこれに従った。

カリフォルニア大学アーバイン校のデモでは、横断幕に「あなたの授業料が大虐殺の資金源になる」の文字が MIKE BLAKEーREUTERS

アーバイン校で学生が警官に暴行されたという話は聞こえてこないし、警官が校舎に突入する不穏な映像も目にしない。それは地域の政治指導者である民主党のカーン市長と大学が、そうした行為に至る道を選ばなかったからだ。

翻って、犯罪への恐怖心をあおることで悪名高いコロンビア大学のシャフィクは、スキャンダルまみれで不人気な警察出身のアダムズ市長、および悪名高い市警と強い協調関係を築くことを選択した。

もちろん、責めを負うべき人物はほかにもいる。この結果を望んだニューヨーク選出の民主党議員やデモを断罪した上院民主党トップのチャールズ・シューマー、デモを批判し秩序の回復を優先したジョー・バイデン大統領にも責任はある。

しかしシャフィクは自らの意思で、リベラルな校風で知られるコロンビア大学を警察国家に変えることを選んだ。学長の座にある限り、シャフィクには強制排除のイメージが付きまとうだろう。もっともその任期がいつまで持つかは分からないが。

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