<経済制裁でびくともしないロシア、人民元の利用拡大という「漁夫の利」を得た中国。しかし、本当の脅威は「野心の大きさ」である理由について>

2022年2月にロシアが本格的なウクライナ侵攻を開始して以来、欧米諸国は自らに害が及ばないようにロシアを罰する方法を懸命に探ってきた。しかし、ほとんどの試みが失敗に終わっている。

前例のない規模の制裁は、今のところロシア経済を破綻させていないし、ロシア政府の行動も変えていない。それどころか、ロシアは戦時経済体制に移行して、今やNATOの3倍の軍需品を生産している。


これとは対照的に、ヨーロッパの経済は停滞している。その最大の理由の1つは、安価なロシア産エネルギーを、コストの高い国のエネルギーに切り替えたことだ。

イギリスは景気後退に入ったことが正式に確認されたし、ユーロ圏は長期にわたり成長がストップした。燃料価格の急騰は、経済大国ドイツにも大きな打撃を与えた。

対ロ制裁の返り血を浴びたのは、ヨーロッパ経済だけではない。ドルの地位はウクライナ戦争前から揺らいでいたが、この戦争で世界的な影響力の一部を失ったようだ。

ロシアに対する大がかりな金融制裁を見て、「いずれ自国も標的になるのでは」と不安を覚えた世界の国々でドル離れが進んだためだ。

この傾向は、歴史的にドルで取引されてきた石油市場でも見られる。中央銀行は国際金融システムで重要な役割を果たす存在であり、その資産は神聖なものと長年考えられてきた。

ところが、欧米諸国はロシア中央銀行の資産を凍結した上に、欧州委員会は今、国際法が定める手続きも取らずに、その資産から生まれる利息(年間32億5000万ユーロ)を、ウクライナ支援に充てる方法を提案している。

だが、そんなことをしてもウクライナ戦争の流れは変わらないだろう。ウクライナが本当に必要としているのは、武器や資金よりも、長期化する戦争で消耗し切った軍を立て直すための兵力だ。

それなのにロシア中銀の利息を差し押さえれば、国際法に危険な前例をつくるとともに、法に基づく国際秩序を擁護するはずのヨーロッパの信頼を傷つけることになる。

経済制裁はロシアやイラン、ミャンマー、シリアといったターゲット国の行動を変える効果がないだけでなく、ほぼ必ず中国の商業的・戦略的利益を助けてきたことにも注目する必要がある。

今回のウクライナ戦争でも、欧米の金融制裁は、国際市場で人民元の利用を拡大する影響をもたらしてきた。

中国はまた、ロシア産の石油やガス、穀物を安く調達できるようになった。中東などから海上輸送するのと違って、ロシアからなら陸路で安全に原材料を確保できる。

それは、いつか台湾を手に入れたい中国にとって、予想される制裁の影響を軽減できることを意味する。


中国は20年以降、核備蓄を増大させ、通常戦力も急速に増強してきた。だが、欧米諸国の目がロシアを向いているため、中国は軍備増強に待ったをかけられるどころか、厳しい監視下に置かれることもなかった。

しかし欧米諸国にとっても、ルールに基づく国際秩序にとっても、中国はロシアよりもはるかに大きな脅威だ。

ロシアの野心は基本的に近隣国に限定されているが、中国はアメリカに取って代わることを目指している。中国の人口と経済規模はロシアの約10倍、軍事費はロシアの約4倍だ。

欧米諸国は、中国のアグレッシブな台頭を助けたり、世界の国々を遠ざけたりする経済制裁が最終的にどのような結果をもたらすかよく考えるべきだ。

対ロシアに注力して、真の敵である中国への対応を怠れば、国際金融の分野はもちろん、国際秩序の頂点の地位も失うことになりかねない。

©Project Syndicate

ブラマ・チェラニ
BRAHMA CHELLANEY
インドにおける戦略研究・分析の第一人者。インド政策研究センター教授、ロバート・ボッシュ・アカデミー(ドイツ)研究員。『アジアン・ジャガーノート』『水と平和と戦争』など著書多数。

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