新型原発プラント「小型モジュール炉(SMR)」の開発支援に乗り出した米グーグルの本社=米西部カリフォルニア州マウンテンビューで23年11月16日、大久保渉撮影

 米グーグルに対し日米当局が包囲網を狭めている。公正取引委員会は、同社がスマートフォン端末メーカーにインターネットの検索エンジン「グーグルサーチ」や閲覧ソフト(ブラウザー)「クローム」などの初期搭載を強要したとして、独占禁止法違反を認定し、再発防止を求める排除措置命令を出す方針。米司法省はクローム売却を求めている。グーグルは、ビジネスモデルの大きな転換を余儀なくされかねない。

 「これまでも(日本)政府と緊密に協議してきた。早急に判断を下したことに深く遺憾の意を表する」。グーグル日本法人は、公取委が処分案を同社に通知したことに反発するコメントを出した。

 グーグルは世界のネット検索市場で9割、ネット閲覧ソフトで7割の市場占有率(シェア)を握っており、「1強体制」は誰の目にも明らかだ。スマホメーカーに巨額の対価を払いつつクロームなどを標準搭載させる手法には「競争環境を不当にゆがめている」との声が出ていた。公取委だけでなく、8月には、米司法省の訴えに対し、米連邦地裁が反トラスト法(独禁法)違反を認める判決を下した。

 グーグルのビジネスモデルは、便利な無料検索サービスなどでユーザーを囲い込み、その好みに合わせた精度の高い企業広告で収入を得るのが根幹だ。親会社アルファベットの7~9月期の決算を見ると、売上高882億ドル(約13兆6000億円)の約6割に当たる493億ドルがグーグル検索などによる広告収入が占める。企業・個人向けのクラウド事業(113億ドル)も伸びてきているとはいえ、今も圧倒的な存在感を放っている。

 特に、同社が自前で育て、世界で利用者30億人ともされるクロームの事業価値については、「200億ドル(約3兆1000億円)」(米ブルームバーグ通信)との見方もある。グーグルは20日、「人々がグーグルを使うのは『使わなければならない』からではなく、『使いたいから』なのだ」との声明を発表し、連邦地裁の独禁法違反の判断に反発しつつも、クロームをスマホに標準搭載する契約を減らす「改善案」を示した。

 米国では2000年にマイクロソフトのパソコン用基本ソフト「ウィンドウズ」の独禁法違反を巡る訴訟で地裁が同社に事業分割を命令した。その後、控訴審で差し戻され和解が成立したが、危機的状況に陥ったことがある。グーグルはこの「二の舞い」は避けたい考えで、司法省が求める「クローム売却」の回避に躍起となっている。

 当面の焦点は司法省とグーグル、どちらの案を地裁が認めるかだ。地裁は審理を25年春に開始し、8月に判断を示す見通しだが、自社の改善策が認められなければ控訴し、徹底抗戦する構えだ。

 一方、司法判断とは別にグーグルの先行きに影響を与えかねないのが、前政権時代からグーグルなどに厳しい対応をとってきたトランプ政権の出方だ。

 トランプ氏は大統領選で自身に都合の悪いニュースばかりを検索サイトで表示すると不満を述べ、ソーシャルメディアに「大統領になればグーグルを起訴するつもりだ」と投稿した。そもそもグーグルの独禁法違反判断の発端となる訴訟を起こしたのがトランプ前政権だった。

 ただ、25年1月に大統領に就任するトランプ氏の下には、大手IT業界のトップらが関係構築を求め相次いで面談しにきている。グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)とも面談済みとされ、新政権がどこまで厳しい姿勢で臨むかは不透明な部分もある。【大久保渉(ワシントン、藤渕志保】

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