尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」の宣布で、軍OBのノ・サンウォン元情報司令官が計画段階から関与し、現役の軍幹部らに指示した疑いが強まっている。警察は18日、ノ氏を内乱などの容疑で逮捕した。ノ氏は戒厳令の宣布を尹氏に進言した金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相と親しく、退官後も軍内に一定の影響力を維持していたとみられる。そんなノ氏の現在の職業は「占師」だった。
ソウル駅から電車で南に約1時間。京畿道(キョンギド)安山(アンサン)市にある駅で降り、20分ほど歩くと古びたアパートがある。地下1階の部屋の扉には「卍」のマークが張られていた。ここがノ氏が拠点にしていた部屋だ。
「あの部屋は占師の店舗で開業して20年以上になる。以前は人気があったが、最近はそうでもない」。近所の自営業女性がこう話した。経営者は50代くらいの女性占師だという。「ニュースで逮捕された映像を見て(ノ氏の)顔を思い出した。占いの店の近くで何度も見た」と語った。
部屋のドアのそばには魚の乾物や、アワの穂が雑然と置かれていた。占いの専門家によると、いずれも占いや祈とうなどで使われる。「卍」のマークは仏教に由来し、これも占師がよく使うという。記者は部屋の呼び鈴を何度か鳴らしたが、応答はなかった。
韓国メディアによると、ノ氏は陸軍士官学校で3年先輩に当たる金前国防相と親しかった。軍内で順調に出世し、朴槿恵(パク・クネ)政権で情報司令官を務めた。だが2018年に部下の女性へのセクハラ問題で解職され、19年に執行猶予付きの有罪判決を受けた。
ノ氏と共にこの占い店で営業している3人の占師は韓国のテレビ局「JTBC」の取材に対し、ノ氏が現役軍人だった10年ほど前に占いの勉強を始めたと語っている。19年にこの店に出入りするようになり、占師として客も取っていたという。占師は「3日夜の戒厳令が宣布された時も店にいた」と証言した。
この占い店の最寄り駅近くにハンバーガーチェーン「ロッテリア」がある。ノ氏は戒厳令宣布の2日前の12月1日、この店でハンバーガーを食べながら軍幹部と戒厳令について謀議した疑いが持たれている。
韓国メディアによると、ノ氏はムン・サンホ情報司令官ら軍幹部に対し「戒厳令がもうすぐあるから備えろ」と指示。選挙管理委員会で「不正選挙」の証拠を確保するよう命じたという。警察は20日、ムン氏の身柄も拘束した。
戒厳令宣布の直後、兵士らが選管の電算室にある選挙人名簿システムのサーバーを撮影している様子が防犯カメラに記録されていた。一部ユーチューバーらが24年4月の総選挙を「不正選挙だった」と唱えており、尹氏がこうした主張に影響されたと指摘されている。
韓国では多くの政治家や経済人らが占師に相談すると言われている。尹氏の妻の金建希(キム・ゴンヒ)氏も、複数の占師と親交があると度々報じられている。ただ、ノ氏が今回の戒厳令に際して占師として誰かに助言したかどうかは現時点では不明だ。【京畿道安山で福岡静哉】
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