「アッラー(神)よ、我らに救いを」「アサド(前大統領)にはアッラーから復讐(ふくしゅう)が果たされるだろう」――。
シリアのアサド政権下で「政治犯」とされた多くの人々が収容され、拷問や処刑が繰り返されていた首都ダマスカス郊外のサイドナヤ刑務所で見つかった遺体が安置されている病院では、悲痛な叫び声が響いていた。
遺体安置所や刑務所、郊外で見つかった「集団墓地」とみられる空き地には、行方不明になっている親族を捜して多くの人たちが訪れていた。手がかりが見つからないまま涙を流す人の姿もあり、アサド前大統領と同じ宗派のシリア人を「全員殺すべきだ」との声も聞かれた。長年にわたる圧政と内戦による傷や怨恨(えんこん)は深い。
6歳の時に家族で国外に避難し、半年前に大学へ通うため帰国したアフマドさん(20)は「空気が違う」と自由の味をかみしめている。家族は年明けに帰国する準備を進めているという。政権崩壊後、内戦の影響で国外に逃れた数百万の人々が故郷に戻り始めている。アフマドさんは「シリアで生まれたのに、シリアに住めないなんておかしい。自分の影さえ怖がっていた時代が終わって、自由にものが言えるようになってハッピーだ。前より良い国になっていくと思う」と語った。
ダマスカスの路上には、鼻を突くペンキの臭いが漂っていた。見ると、人々が服屋や飲食店が並ぶ商店街の閉じたシャッターの多くに描かれた国旗を塗りつぶしていた。旧政権のシンボルを反体制派の旗に塗り替えるのだろうか。ある店主に聞いてみると「いや、みんな白色に塗りたいんだよ。平和の白だからね」と話した。
ダマスカスとその近郊では、噴き出す怒りや悲しみを解放感と歓喜が包み込んでいるように思えた。【和田大典】
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