2024年パリ五輪を控え、パリ郊外の貧困地域では軽犯罪や露天商を一掃する狙いで警察の取締りが行われた。写真はパリ近郊のビルパント拘置所で、3人が共有する居室の洗面所。4月8日撮影(2024年 ロイター/Layli Foroudi)

2024年パリ五輪を控え、パリ郊外の貧困地域では軽犯罪や露天商を一掃する狙いで警察の取締りが行われた。これに伴い、ただでさえ定員のほぼ2倍を収容している刑務所・拘置所はますます困難な状況に直面している。

ビルパント拘置所はセーヌサンドニ県の郊外に位置する、灰色のコンクリートに囲まれた施設だ。7月26日に開幕するパリ五輪でボクシングおよびフェンシングの競技会場となる予定のパリ北アリーナからは2.5キロの距離にある。

ビルパント拘置所は、フランスでも有数の過密状態にある。多くの裁判で忙殺されている近隣のボビニー裁判所から、被告人や短期の受刑者を受け入れている。

ボビニーのエリック・マテ主任検察官はあるインタビューで、「刑務当局は最悪の事態に備える必要がある」と語っている。

マテ氏は、五輪前に収容者を減らすことは現実的ではない、と言う。

「人数を制限する必要があるが、言うだけなら簡単だ。何しろこちらには、もっと取り締まりを強化しろという非常に強い圧力があらゆる方向からかかっている」

ロイターがインタビューしたボビニーの裁判所で働く検察官、裁判官、弁護士、職員ら13人は、セーヌサンドニの司法システムはフル回転の状態にあり、五輪を前に、軽微な法律違反をこれまで以上に訴追するようになっている、と語る。

4月8日、ロイターは地元選出のコリンヌ・ナラシギン上院議員とともにビルパント拘置所を訪問した。パスカル・スパンル所長によれば、同日の時点で、定員582人のところに1048人が収容されていた。スパンル所長は、この拘置所でこれ以上受け入れるのは不可能だと語った。

ロイターは4人の収容者に話を聞いた。ほとんどの日を居室で過ごすが、1人用の独房にもかかわらず最大3人が収容されており、トイレは共有、シャワーを1日おきに交代で使っているという。拘置所当局によれば、少なくとも17人の収容者が床に敷いたマットレスで寝ているという。

ヤニス受刑者(20)は、刑務作業に入るのを何カ月も待たされているという。2人の同房者のうちアディル受刑者(25)は、ここに来てから7カ月、更生相談員の面接を受けたことはないと語る。

拘置所のルドビック・ルバスール医官は、ここ数年メンタルヘルス治療への需要が高まっているが、拘置所が過密状態にあるため、精神科医1人が最大60人の患者を担当しており、診察を長く待たされる事態が生じているという。

限界に達するのを避けるため、ボビニー裁判所の裁判官らは昨年、ビルパント拘置所と別の矯正施設1カ所からの早期釈放を、従来のほぼ2倍に当たる500人近くに増やした。

だが、それでもビルパント拘置所は4月初めの時点で定員の180%で運用されている。司法省のデータによれば、昨年4月は177%、一昨年は168%だった。

スパンル所長は、五輪に向けて収容者の急増が予想される中で、ビルパント拘置所では他の拘置所への移送により220人分のスペースを生み出す計画だという。長期的には、収容棟の増築を予定している。

エリック・デュポンモレッティ法相は、国内の検察官に宛てた1月15日付けの書簡の中で、五輪の混乱につながりかねない法律違反に対して「迅速かつ強力でシステマティックな対応」を求めた。

セドリック・ロジュラン広報官によれば、司法省は過密状態の解消と五輪期間中の犯罪防止に向けた措置をとっているという。ただし同氏は、裁判所の判決は、こうした措置とは無関係だと述べている。

<「その場しのぎ」>

セーヌサンドニ県では多くの五輪イベントが行われる。セーヌサンドニはフランスの中で移民比率が最も高く、また最も貧しい県だ。

同県の教師たちは、この地域の学校への予算配分が不十分だとして2月以来ストライキに入っている。県内では、ホームレスや旅行者によるキャンプや不法占拠が見られる。

地区によっては、無許可の露天商が街路に列をなすところもある。

セーヌサンドニ県イルサンドニ市のモハメド・グナバリ市長は、投資不足のため何年も遅れていたインフラや住宅の整備が五輪のおかげで進んだ、と語る。

だが、フランスの法律・矯正施設を調査するCESDIPに所属する社会学者のオリビエ・カーン氏は、警察による取り締まりと厳しい刑罰への依存は、貧困層、移民、ホームレスに不当に大きな影響を与えている、と指摘する。

「万事がその場しのぎだ」とカーン氏は言う。

マテ検察官によれば、この地域における麻薬取引や無許可の販売といった路上犯罪をターゲットとして昨年開始された「ゼロ・トレランス(非寛容)」の取り締まりによって、刑務所の収容者数はさらに増加しているという。

セーヌサンドニ警察の地域治安担当責任者ミシェル・ラボー氏は先週の記者会見で、3月と4月には警察官を4000人増員したと述べ、この取り締まりは「クリーンアップ」であり、地元住民と「観光客、観客、選手の家族」のために安全を提供する作戦だと語った。

「これは始まりにすぎない。(五輪に向けて)さらに強度を上げていく予定だ」とラボー氏は語った。

ロイターが取材した法律専門家7人は、この取り締まりに批判的だ。

ボビニーの法廷弁護士ファド・クニア氏は、無許可の路上販売などの法律違反に重い刑罰を科すことは過剰であり、ただでさえ脆弱な立場にある人々をさらに追い詰めることになる、と言う。

<パンク寸前の施設>

欧州理事会のデータによれば、フランスの刑務所・拘置所の過密度はルーマニアとキプロスに次いで欧州第3位。また2022年には欧州内でスロベニアに次ぐペースで刑務所・拘置所の人口が増加した。

司法省のデータからは、フランスの施設が史上最も過密な状態にあることが分かる。

五輪開催中に予想される訴訟件数に対応すべく、ボビニーの裁判所では迅速審理を拡大する準備を進めている。だが国際刑務所監視局(OIP)は、迅速審理では通常の裁判に比べて実刑判決に至る可能性が8倍高くなると指摘している。

OIPの研究者であるヨハン・ビール氏は、司法省のデータでは迅速審理手続きの活用が近年徐々に増加しており、施設の過密状態に拍車を掛けている、と語る。

元受刑者の支援に当たる慈善団体「エメルジャンス93」は、過密状態のために刑務所内での活動や支援を利用しにくくなっており、そのことが社会復帰への妨げになっている、と指摘する。

さらに困ったことに、エメルジャンス93がセーヌサンドニ県で運営し元受刑者を雇用している2カ所の洗車場が五輪期間中の閉鎖を迫られているという。1カ所は五輪期間中に閉鎖されるショッピングモールの駐車場内、もう1カ所は日本選手団に提供される施設内にあるという。

エメルジャンス93でソーシャルワーカーとして働くマニュエル・シャジュモウィーズ氏は、同団体は五輪組織委に対し、選手や役員に提供される500台の車両の洗車を元受刑者に任せてくれるよう申し入れたが、まだ回答がないという。

[ロイター]


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