ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使 Kazuki Oishi/Sipa USA-Reuters
<ジョージアに対する批判的な報道が増えているが、それを利するのは誰か?>
ジョージアは現在、一世一代の難局を迎えている。
「ジョージアはEU加盟路線を放棄したのか」「ジョージアの与党は親ロシア派だったのか」などの多くの声とともにジョージアの状況をニュースで見聞きされた方も多いと思うが、状況がよく分からない面もある。事実、私の見る限り、日本国内では専門家からのコメントや分析が明確にはなされていない。
どの国にも言えるが、特に日本はしっかり時系列を追って慎重に報道するため、突然と沸いた、今回のジョージアの事態に困惑しているのだと思う。だからこそ、「スタンバイモード」で状況を見守り、すぐに結論を出すことを控えているのだろう。
実は正直なところ、私自身も状況を完全に分かり切っているわけではない。これが明確に分かれば、ジョージアは今の状況にならなかったのではないかと思う。
しかしながら、今回の事態が起きたことにあたってのキーポイントを、私の目線から整理したい。そして、最後には出口のカギがどこにあるのかについても考察したい。
今回の事態の流れの中で重要なのは、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻がある。このことによって、各国はロシアとウクライナのどちらにつくかを明確にすることを迫られた。
中でも、ロシアに対して制裁を行なうかどうかは「踏み絵」になっている。それは日本も同様で、ロシアとは特にエネルギー資源面で深い関わりがあったにもかかわらず、極めて早い段階で「ウクライナ支援、ロシア制裁」に明確に踏み切っている。
そんな中、ジョージアの姿勢も注目を集めていた。というのも、ジョージアは(どこよりも先に!)2008年にロシアに侵略され、現在も国土の20%をロシアに占領されているからだ。
ジョージアが取った決断は当然の成り行きでもあるが、ウクライナ支持だった。ジョージア政府はどこよりも早くウクライナに対する人道支援を行い、また国際場裡におけるウクライナ支持に協調した。
しかし、ジョージアはEUにもNATOにも加盟していない。そして領土の20%をロシア軍が実効支配しているため、常にロシアからの脅威に晒されている。現在、ロシアとは断交してはいるものの、歴史的に人の移動が活発であり、経済関係もある。だからこそ、否が応でも、ロシアとの関係において、バランスを図らなければならないのだ。
ここで考慮せねばならないのは、大国には制裁をするリソースがあっても、残念ながらジョージアには、その政治的、経済的、安全保障的なリソースに余裕がないことだ。ジョージアにとっては「断交」さえも、ある意味では大胆なロシアへの制裁なのだ。
このような背景がまったく考慮されず、ジョージア政府がロシアに融和的だと次第に言われるようになっているのはなぜか。実際には、ロシアに対しては表面的には批判する構えをとりつつも、ジョージア以上にロシアとの利害関係を重要視している欧州の国々はけして少なくはない。外交関係における「虚像」にジョージアが絡めとられているように私には見えている。
現在、ジョージアに対する批判はだんだん強まっている。今年5月に可決された「外国勢力の利益のためにはたらく組織」を明確にするスパイ法は「ロシア法」と称され、10月26日に実施された議会選挙は「不正だ」と欧米諸国から批判されている。
そして、コバヒゼ首相がジョージアのEU加盟交渉を2028年末まで延期することを発表したことによって、本格的にロシアへの路線に舵を切ったと判断した多くの国民感情が爆発し、かつてないほどの大きなデモに発展している。
さらに、この状況に拍車をかけ、一段と複雑にしているのが、欧米諸国との関係が最も強い政治家であるズラビシュヴィリ大統領の存在だ。この状況下で「私が憲法の保証人となる」、つまりEU加盟はジョージアの憲法に定められた外交方針であるとして、政府批判にアクセル全開となっていることだ。
年末に任期を迎え、まさに「捨て身の構え」となったズラビシュヴィリ大統領を多くの若者が支持している。そして、EU諸国とアメリカもズラビシュヴィリ大統領の動きに連動して、ジョージア政府の要職に対して制裁を発表し、デモに参加する国民に発破をかける形となっている。
しかし、ここで忘れてはいけない最も重要なことは、2030年にEU加盟を必ず達成するとして、欧米諸国との関係修復を最優先事項にすることをジョージア政府が事あるごとに明言していることだ。
真相はどこにあるのか。そして今後の行方とシナリオは、私を含めて誰にも想像がつかない。ただし、2つだけ伝えたいことがある。
1つには、ジョージア政府とジョージア国民の対立の激化、あるいは伝統的に価値観を共有するジョージアとEUの外交的対立のエスカレーションは、ロシアを利することにしかならないということだ。だから何としてでも、今の状況を鎮静化しなくてはならない。
そしてもう1つは、私自身はジョージアのEU加盟への道を信じているということだ。ジョージアのこれまでの歴史的経緯を踏まえた上でも、長期的な視点でみても、EU加盟への道が揺らぐことは決してないと思っている。ただし、それがどんな道を辿るにせよ、戦争だけは回避しなければならないことは確かだ。
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