ただでさえ不景気なのに、トランプという不確実性にも備えなければならないドイツ(11月30日、ベルリン)  Photo by Michael Kuenne/PRESSCOV/Sipa USA

<自由主義か保護主義かではない。争点はどのような保護主義かだ>

ドナルド・トランプが2000年の米大統領選への出馬を模索していたとき、政権構想を記した書籍がある。通商政策の章は、こんな言葉で始まっていた──「私自身を通商交渉の責任者に任命する」。

11月の大統領選で大統領への返り咲きを決めたトランプは、1月20日に始まる2期目の政権でこの言葉を実質的に実行に移すつもりらしい。


大方の予想を裏切り、トランプは今回、政権1期目で米通商代表部(USTR)代表を務めたロバート・ライトハイザーに要職を与えず、経験の乏しい人物をUSTR代表に指名。経済政策部門の上層部は、筋金入りの保護貿易主義者と自由貿易重視派の混成チームで構成することにした。

この人事を見る限り、通商政策ではトランプが陣頭指揮を執ることになりそうだ。

政権2期目の通商政策をめぐる焦点は、自由貿易か保護主義かではない。自由貿易派は既に発言力を失っている。問われるのは、どのような保護主義が実践されるのかだ。

トランプは早くも、1月20日の就任初日にメキシコおよびカナダからの「全ての輸入品」に25%の関税を課す方針を表明。そのすぐ後には、ブラジル、ロシア、インド、中国などのBRICS諸国が共通通貨を新たに設けるなど、国際貿易の決済でドル離れを進めるのであれば、100%の関税を課すとも述べた。

次はどの国がトランプの関税政策の標的になるのかという不透明感も高まっている。ヨーロッパ諸国が防衛支出を増やさなければ、あるいは日本や韓国の企業が中国産の原材料を使い続ければ、狙い撃ちにされるのだろうか。

トランプは1期目の終盤、2019年半ばにも似たようなアイデアをちらつかせたことがある。メキシコからの全ての輸入品に5%の関税を課し、メキシコがアメリカへの不法移民流入を減らさなければ、税率を段階的に25%まで引き上げると表明したのだ。このときは、メキシコ政府が国境管理の強化を約束し、危機は回避された。


2期目の政権では、1期目に手腕を振るったライトハイザーが去り、関税政策のエキスパートの存在感は薄くなる。USTR代表に指名されたのは、40代のジェミソン・グリア。通商法を専門とする弁護士で、元米空軍の軍人。1期目の政権でライトハイザーの首席補佐官を務めたが、政府で働いた経験はそれだけしかない。

その点、通商・製造業担当の大統領上級顧問を務めるピーター・ナバロは、1期目で通商政策担当の補佐官を務めた経験の持ち主。強硬な保護貿易主義者であり、2021年1月の連邦議会襲撃事件に関して議会証言を拒否し、4カ月間収監された人物である。

一方、ホワイトハウスの国家経済会議委員長に指名されたのは、経済学者のケビン・ハセット。ナバロとは対照的に、伝統的な共和党の考え方に近い自由貿易主義者だ。

このように考え方が異なる面々が集まる結果、1期目と同様、関税と貿易に関して政権内で激しい議論が戦わされるだろう。しかし、1期目と違うのは、ライトハイザーがいないことだ。混乱の中に秩序を生み出せるだけの経験の持ち主が新しいチームには見当たらない。

その結果、誰よりも混乱をつくり出す男、ドナルド・トランプがアメリカの通商政策を取り仕切ることになりそうだ。世界の国々は覚悟しておいたほうがいい。


From Foreign Policy Magazine


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