内閣総辞職後、国民向けにテレビ演説をするマクロン(12月5日) CHRISTIAN HARTMANNーREUTERS

<「マクロン流」は断末魔。バルニエがエマニュエル・マクロン大統領に辞表を提出し、内閣は総辞職。右派首相の辞任と深まる危機>

混乱続きのフランス政治が新たな衝撃に襲われた。フランス国民議会(下院)は12月4日、右派のミシェル・バルニエ首相率いる少数連立内閣に対する不信任決議案を可決。翌日、バルニエがエマニュエル・マクロン大統領に辞表を提出し、内閣は総辞職した。

きっかけは、バルニエ政権が突き付けた緊縮型の来年度予算案だ。議会の承認を得られる見込みがないなか、バルニエは憲法の特例措置を適用して採決なしで、予算案を強行採択。これに反発した左派連合の新人民戦線が内閣不信任案を提出し、極右の国民連合(旧国民戦線)が同調した。


フランスで内閣不信任案が可決されたのは1962年以来で、実に62年ぶりだ。求心力低下の窮地にあるマクロンは、次期首相選びという新たな難題に取り組まなければならない。

急進左派と極右は大統領の任命責任を問うているが、マクロンが辞任することはなさそうだ。一方、国民議会は来年7月まで解散できない。憲法の規定により、解散・総選挙から1年間は新たな選挙を実施できないからだ。それまで、フランス政治は不安定な状態が続くことになる。

新首相の任命まで、どれほど時間がかかるかは分からない。今後については、想定可能なシナリオが3つある。

第1に、自身が率いる中道派と自らの政策を守るべく、マクロンが新たな過半数勢力をまとめ上げようとする。それには伝統的右派と中道左派の両者を取り込む必要がある。

だが、中道左派がマクロン支持に回る可能性は低い。新人民戦線にとどまるほうが、得るものが大きいからだ。中道左派から急進左派までが加わる新人民戦線は、一致団結できれば、真に左派的な改革を実行できる。

経済の先行きも不透明

そこで浮上するのが、左派主導政権という第2のシナリオだ。だが、新人民戦線は議会最大会派とはいえ過半数議席を確保しておらず、中道派と手を組む必要があるだろう。これほど寄り合い所帯的な政権では、法案をめぐって交渉を繰り返すことになる。

3番目のシナリオはさらに問題含みだ。予算案を変更するという条件付きで、マクロンは再びバルニエを首相に任命するかもしれない。

いずれにしても、次期政権は短命に終わる可能性が高い。下手をすれば、次の国民議会選挙までに数回、政権が代わる事態も考えられる。フランス社会で深まる分断は、次の選挙後も解消できないだろう。

来年度予算は当面、後回しだ。アメリカと異なり、フランスでは予算切れによる政府閉鎖は起こらない。新たな予算案の成立が間に合わない場合、今年度予算を踏襲する特別法で対応することになる。

しかし、フランスの財政赤字の対GDP比は今や5%を超え、3%以下というEUの財政規律に違反している。次期政権がどんな形であれ、新型コロナのパンデミック以来、大幅に膨らむ財政赤字の削減圧力に直面するのは間違いない。消費者信頼感指数や成長率の低下も頭痛のタネだ。

さらに、フランス国債利回りは上昇している。利払い費用がかさめば、より多くの税金が借金返済に投入される。生活費危機に悩む国民の反発は強まるだろう。四面楚歌のマクロンとフランス政治の行方は大荒れ模様だ。

Romain Fathi, Senior Lecturer, School of History, ANU / Chercheur Associé at the Centre d'Histoire de Sciences Po, Australian National University

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