ノルウェーの首都オスロの街では、ノーベル平和賞授賞式に続き、平和を祈るトーチパレードが行われました。

核による悲劇を二度と起こさせない。
力強い訴えがノルウェーの夜空にこだましました。

日本時間の10日午後9時から行われた授賞式。
被団協(日本原水爆被害者団体協議会)を代表して田中熙巳さんがスピーチを行い、核兵器の廃絶を世界に訴えました。

日本被団協・田中熙巳さん:
1945年8月9日、爆撃機一機の爆音が突然聞こえると、まもなく真っ白な光で体が包まれました。

1945年8月、広島と長崎に投下された原子爆弾により約21万人の命が奪われました。

当時13歳だった田中さんは、爆心地から3km余り離れた長崎市内の自宅で被爆しました。

日本被団協・田中熙巳さん:
3km余り先の港まで黒く焼き尽くされた廃墟が広がっていました。麓に下りていく道筋の家は全て焼け落ち、その周りに遺体が放置され、大やけどを負いながら、なお生きている人々が誰からの救援もなく放置されておりました。ひとりの叔母は爆心地から400メートルの自宅の焼け跡に大学生の孫とともに黒焦げの死体で転がっておりました。その時目にした人々の死にざまは人間の死とはとても言えないありさまでした。

原爆の投下で、田中さんは5人の親族を亡くしました。

日本被団協・田中熙巳さん:
たとえ戦争といえども、こんな殺し方、こんな傷つけ方をしてはいけない、私はその時、強く感じたものであります。生き残った被爆者たちは、被爆を7年間、占領軍に沈黙を強いられました。

原爆投下の夏から11年後の1956年に結成された被団協。
世界に向けて核兵器の廃絶などを訴え続けてきた姿勢が今回の受賞につながりました。

日本被団協・田中熙巳さん:
想像してみてください、直ちに発射できる核弾頭が4000発もあるということ。人類が核兵器で自滅することのないよう、そして核兵器も戦争もない、世界の人間社会を求めて、ともに頑張りましょう。

スピーチを受けて各国の反応も入ってきています。
核を保有する国がどう反応しているのでしょうか。

まずロシアですが、一部メディアのみが授賞式が行われたことだけを報じています。

続いて中国は、こちらも一部メディアのみで国営メディアは取り上げてはいません。

そしてアメリカは、AP通信が、田中さんが語った懸念から「生存者たちは人生の晩年を迎えつつあり、核兵器の使用に対するタブーが薄れつつあるのではないかという不安と格闘している」と引用するなどして紹介しています。

SPキャスター パトリック・ハーラン氏:
(Q.今回の受賞、世界の核保有国の核の考え方に影響しそうだが?)素晴らしい演説に僕も感動しましたけど、残念ながら、核保有国内の世論は変わらないと思います。
現にロシアはこの間ガイドラインを変え、非保有国に対しても核兵器を使えるとしましたし、北朝鮮はもちろんのこと、中国も核弾頭の数を増やそうとしているし、アメリカも増やすかと検討しています。
自分たちにとっては既得権といっていいかもしれませんが、これは抑止力であって絶対に手放せないという世論の方が強いと思いまして、今回は残念ながら変わらないかなと思います。

そして、改めて世界各国の核弾頭保有数をみていきます。

ロシアが5580発、アメリカも5044発、中国が500発となっています。
その他にもフランス、イギリスは200を超えています。
インド、パキスタン、イスラエル、そして北朝鮮も核を保有しているとされていて、合計で1万2000発を超える核兵器が今現在、存在していることになります。

フジテレビ・立石修解説委員室長:
プーチン大統領はご存じのように核による恫喝を続けていて、今は冷戦以降最も核戦争の危機に近づいた時代と言えると思います。
田中さんはプーチン氏については、「核兵器の恐ろしさを本当のところ考えたことも理解したこともないのではないか」と話しています。
抑止力が必要とされる時代ではありますが、こういった田中さんたちの話を通じて、その恐ろしさを世界が共有していくことが必要かと思います。

青井実キャスター:
(Q.田中さんのスピーチをどう聞いた?)「核兵器の非人道性を感性で受け止めることのできるような原爆体験の証言の場を各国で開いてください」とおっしゃっています。つまり被爆体験を聞くことで、単に核反対を訴えることだけじゃなくて、困難な状況でどう廃絶を実現できるのかという道筋をしっかりと田中さんは描いてくださっているわけですね。今、被爆者の皆さん平均年齢85歳です。10年、20年先を考えると、直接皆さんから話を聞けるのかとも考えてしまいます。今92歳の田中さんから私たちに託されたものは一体何なのか、しっかりと向き合っていかなくてはいけません。

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