12月9日、約6カ月前、シリアの反体制派はアサド大統領による権力を弱める好機が訪れたことを察知した。写真は8日、ダマスカスから立ち上る煙(2024年 ロイター/Mohamed Azakir)
約6カ月前、シリアの反体制派はアサド大統領による権力を弱める好機が訪れたことを察知した。トルコに大規模な攻勢計画を伝えたところ、同国から暗黙の承認が得られたという感触があったからだ。計画を知る情報筋2人が語った。
この作戦は開始からわずか2週間で、当初の目標だったシリア第2の都市アレッポの制圧を達成し、ほぼ全員を驚かせた。それから1週間余りで反体制派連合軍は首都ダマスカスに到達し、8日にはアサド氏一族による50年にわたる支配に終止符を打った。
電撃的な進撃が可能になったのは、反体制派にとってほとんど完璧とも言える条件が整ったおかげだ。アサド政権の軍は士気が低下し、疲弊していた。政権の主要同盟相手だったイランとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラは、イスラエルとの戦争で深刻な打撃を受けていた。その上、アサド政権にとってもう1つの主要な軍事支援国であるロシアは、ウクライナ侵攻に気を取られ、シリアへの関心をなくしていた。
中東の外交官とシリア反体制派メンバーは、内線の初期から反体制派を支援してきたトルコに通知せずに反体制派が行動を起こすことはあり得なかったと語った。
トルコはシリア北西部に軍を駐留させ、シリア国民軍(SNA)など一部の反体制派を支援してきた。ただ、反体制派連合の主要グループであるシャーム解放機構(HTS、旧ヌスラ戦線)についてはテロ集団とみなしている。
中東の外交官によると、反体制派の大胆な作戦はHTSとその指導者アブ・ムハンマド・アル・ゴラニ氏の発案だった。
ゴラニ氏は過去に国際テロ組織アルカイダとつながっていたため、米国、欧州、トルコからテロリストに指定されている。
トルコのエルドアン政権は2020年、シリア北西部での戦闘を縮小することでロシアと合意。エルドアン大統領は長年、新たにシリア難民が押し寄せることを懸念し、シリア反体制派の大規模な攻勢に反対してきた。
しかし反体制派は今年、アサド氏に対するトルコの姿勢が硬化したことを感じ取っていたと情報筋は言う。エルドアン氏が、軍事的膠着(こうちゃく)状態の政治的解決を前進させるため度重なる申し入れを行ったにもかかわらずアサド氏がそれを拒絶したためだ。この結果シリアは政権側と、複数の反体制派グループの寄せ集めに分断されたままの状態に置かれた。
シリア反体制派の情報筋によると、アサド氏がトルコの申し入れを拒絶した後、反体制派はトルコに作戦の詳細を知らせた。「他の方法はもう何年も成功していない。だからわれわれの方法を試してくれ。何もする必要はない。ただ介入しないでいてくれ」というメッセージだったという。
ロイターは、こうしたやり取りの正確な内容を確認できなかった。
トルコのフィダン外相は8日にドーハで演説し、エルドアン大統領がここ数カ月アサド氏に接触を試みたが失敗に終わり、トルコは「何かが起こることを知っていた」と述べた。
一方トルコの外務省高官の1人はこの日、シリア反体制派の攻勢はトルコが「黒幕」ではないし、同意を与えたわけでもないと説明している。
トルコの外務省と国防省は、アレッポ作戦に関するHTSとトルコの認識についてロイターの質問に直接回答しなかった。
トルコ政府高官はロイターに対し、HTSは「われわれから命令や指示を受けておらず、作戦についてわれわれと調整もしていない」と説明。「そういう意味では」アレッポでの作戦がトルコの承認または許可のもとで行われたと言うのは正しくないと述べた。
弱体化したアサド政権
反体制派はアサド政権が最も弱体化した時に攻撃を仕掛けた。
政権に軍事協力するロシア、イラン、レバノンのヒズボラは他の戦闘に目を奪われ、長年アサド氏を支えてきたような決定的な戦力を動員できなかった。
アサド政権の脆弱な軍事力だけでは反体制派に抵抗できなかった。政権筋はロイターに対し、戦車や飛行機は汚職と略奪により燃料が切れていたと語った。政権の空洞化を如実に示すエピソードだ。過去2年間に軍隊の士気は著しく低下していたと同筋は言う。
シンクタンク、センチュリー・インターナショナルのアロン・ランド研究員は、HTS主導の連合軍は内戦始まって以来のどの反体制派よりも強力で結束しており「その多くはゴラニ氏の功績だ」と述べた。ただ同氏は、決定的な要因は政権側の弱さにあったと指摘した。
米政府高官は、米政府はトルコが反体制派を全面的に支援していることを認識していたが、アレッポ攻勢に関するトルコの暗黙の承認については承知していなかったと述べた。
トランプ次期米大統領は8日、ロシアがアサド氏を見捨てたことが同氏の失脚につながったと発言。そもそもロシアはアサド氏を守るべきではなかった上に、起こってはならなかったウクライナ戦争のためにシリアへの関心を失っていたと付け加えた。
ガザ地区戦闘の余波
情報筋によると、ヒズボラは内戦初期にアサド政権を支援していたが、過去1年間にイスラエルとの戦闘のために多くの精鋭戦闘員をシリアから撤退させていた。
シリアでの反体制派の攻勢は、イスラエルとヒズボラの停戦が発効した11月27日に始まった。情報筋によると、ヒズボラはこの戦闘による大打撃からの組織立て直しに集中しており、シリアで大きな戦闘に関与することを望んでいなかった。
アサド政権崩壊は、ヒズボラの後退に続いてイランの中東地域における影響力に重大な打撃を与えたと言える。対照的にシリアで最も強力な外国勢力となったように見えるのはトルコだ。
トルコはシリアからの難民を送り返す道筋を確保しただけでなく、シリアの北東部を実質的に支配するクルド人グループの力を抑えたいと考えている。これらのグループは、トルコがテロ組織と認定するクルド系団体とつながりがあるためだ。
こうした中、反体制派による攻勢作戦の一環としてトルコを後ろ盾とするSNAは、クルド人グループの支配地域に属していたテルラファートなどを掌握。トルコの治安当局筋によると、8日にはクルド人グループを押し返して反体制派が北部の都市マンビジに突入したという。
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