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<世界最大の魚であるジンベエザメを戦略に沿った行動で狩るシャチの群れ。各地のシャチは、それぞれの環境や獲物に適した戦略を駆使することで知られている>

カリフォルニア湾南部に暮らすシャチたちの、驚くべき「狩猟戦略」が研究者たちによって記録された。シャチたちは群れで巨大なジンベエザメを狩り、その臓器を取り出していた。そこでの記録や撮影された写真からは、シャチの群れが高度な戦略に沿って知的に連携しながらそれぞれの役割を果たして「世界最大の魚」を狩る様子を見ることができる。

■【写真】シャチの驚くべき「狩りの戦略」を撮影...高度な戦略で「巨大な獲物」を仕留めるテクニック

メキシコの研究チームが、2018年から2024年にかけて観察された4つの事例を報告した。いずれのケースでも、シャチたちは協力しあい、体長18メートルに達することもある世界最大の魚ジンベエザメを仕留めた。

海洋科学の学術誌『フロンティアーズ・イン・マリーン・サイエンス』に2024年11月29日付で発表された論文には、シャチの群れが高度に連携し、巨大な獲物の動きを止める方法が記述されている。

論文の責任著者ジーザス・エリック・イゲラ=リバスは、「狩りにおいて、シャチの群れは全員で協力しあい、ジンベエザメに何度も体当たりし、その体を(仰向けになるよう)ひっくり返す」と説明する。

イゲラ=リバスによれば、この形で攻撃を受けたジンベエザメは「擬死」と呼ばれる状態に陥る。こうなるとジンベエザメはしばらく動くことも逃げることもできなくなるという。

シャチの群れはジンベエザメを襲うとき、筋肉や軟骨が少ない腹部を狙うようだ。この戦略的なアプローチにより、特に脂質が豊富で栄養満点の肝臓など、重要な臓器を取り出しやすくなる。

今回の発見が提起する海洋生態系の保全に関する疑問

モクテスマと名付けられた雄のシャチが、記録された4回のうち3回の狩りにいた。群れのメンバーまたは身内と思われる雌のシャチも、4回のうち1回の襲撃に参加していた。

海洋保全に取り組む慈善団体ORCAの教育責任者アナ・バニーは本誌の取材に対し、「シャチは、その特殊な狩りの手法で世界的に知られている」と説明する。「このレパートリーに今、世界最大の魚を仕留める印象的なテクニックが加わった」。バニーは今回の研究に参加していない。

研究チームは、背びれなどの特徴を写真で分析し、シャチの個体を識別した。

今回の発見は、海洋生態系のダイナミクスと保全に関する重要な疑問を提起している。イゲラ=リバスは、海洋観光を注意深く管理することが必要だと強調した。「資源開発とは無関係の(海洋における)あらゆる活動が、敬意を持って、持続可能な方法で行われることを保証するような、明確な規制基準が必要だ」と同氏は述べた。

研究チームはまた、モクテスマの群れの特殊な狩猟戦略にも、潜在的な脆弱性があると指摘している。もし気候変動が、カリフォルニア湾に生息するジンベエザメの個体数に影響を及ぼせば、これらのシャチは、独自の補食方法を維持していくうえで大きな困難に直面する可能性がある。

「シャチたちが戦略的かつ知的に協力し、獲物の体の特定部位のみを狙う姿は非常に印象的だ」とイゲラ=リバスは語る。「彼らがどれほど優れた捕食者であるかがよくわかる」

世界自然保護基金(WWF)によれば、ジンベエザメは、補食されなければ150歳まで生きることもある。しかし、そこまで長生きする個体は少なく、成体まで生き延びる割合は10%以下だ。

シャチはジンベエザメ以外のサメも食べるのか?

体長10メートル近くに達することもあるシャチは、世界中に生息しており、極めて適応力の高い捕食者だ。当然ながら、ほかのサメを食べた記録もある。2024年に発表された別の研究では、カリフォルニア湾のシャチが、カマストガリザメやオオメジロザメなど、さまざまなサメを捕食している証拠が示された。

オオメジロザメは、体長3メートルを超える攻撃的なサメで、シャチにとっては大きな脅威になる可能性もある。

研究論文には、次のように書かれている。「海面での観察によると、1頭のシャチが、サメの側面に体当たりし、失敗してもすぐ再挑戦し、その後、上下逆さまになって尾で叩こうとした。これは、『ロブ・テーリング』または『テール・スラッピング』と呼ばれる狩りのテクニックだ」

一方、南アフリカでは、地球上で最も有名な捕食者の一つホホジロザメを捕食するシャチの姿が記録されている。

ORCAのバニーは、こう述べている。「高度に特殊化した、協調的かつ知的な補食戦略の例としては、シャチの群れが連携し、流氷の上にいたアザラシを氷から落とそうとして波を起こしたり、魚を囲い込んだ後で、強力なテール・スラッピングで驚かせたりする方法がある」
(翻訳:ガリレオ)

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