韓国情勢について記者の質問に答える石破茂首相=首相官邸で2024年12月4日午前9時50分、平田明浩撮影

 日本政府は、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が非常戒厳令を宣布したことで生じた韓国国内の混乱を懸念している。石破茂首相は、岸田文雄前首相が尹氏との間で築いた「蜜月関係」を引き継ぐ方針だが、尹氏が政権を維持できなくなれば安全保障面などで強めてきた日韓連携の流れを直撃しかねない。

 石破首相は4日、韓国情勢について首相官邸で記者団に対し「特段の重大な関心をもって注視している」と語った。そのうえで、在留邦人の安全確保について「領事メールをただちに発出するなど、できる限りの対応をとっている。引き続き安全に万全を期していく。現時点で邦人被害の報には接していない」と述べた。

 徴用工や慰安婦問題などで冷え込んでいた日韓関係は、2022年に保守系の尹氏が大統領に就任した後、大きく改善した。韓国政府は23年3月に徴用工問題を巡る解決案を発表。当時首相だった岸田氏は同月に訪日した尹氏と会談し、10年以上途絶えていた首脳同士の「シャトル外交」の再開で合意した。中国や北朝鮮を念頭に置いた日米韓3カ国の安全保障協力強化も日韓関係の改善を後押しした。大きな推進力となったのが、歴代大統領の中でもとりわけ日韓関係を重視した尹氏の前のめりな姿勢だった。

 石破首相もこうした流れを引き継いで、尹氏との個人的な関係構築を目指している。10月の就任後、尹氏とはすでに2回会談。25年に日韓国交正常化60年を迎えることを踏まえ、協力を強化していく方針を確認した。シャトル外交の一環として、25年1月前半には韓国を訪問し、尹氏と会談する方向で調整している。中谷元・防衛相も12月下旬にも訪韓して金龍顕国防相と会談する方向だ。

 だが、今回の事態を受けて、首相は4日、自身の訪韓について記者団に「まだ何ら具体的に決まっているものではない」と述べるにとどめた。超党派の日韓議員連盟は12月中旬に予定していた菅義偉会長(自民党副総裁)の韓国訪問取りやめを決めた。情勢の緊迫度が増せば、日韓の要人往来を含め影響がさらに広がる可能性もある。外務省幹部は「岸田氏と尹氏の個人的信頼関係にも支えられて、日韓関係は改善が進んできた。影響を注視している」と語った。【園部仁史、中村紬葵、加藤明子】

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