韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日午後10時半過ぎ、緊急の談話を発表し、国会での野党の行為について「内乱を企てる明白な反国家行為だ」と指弾。「非常戒厳を宣布する」と表明した。それを受けて発足した「戒厳司令部」は同日、「国会と地方議会、全ての政党活動と集会、デモを禁じる」との布告を出した。しかし、韓国国会は4日未明に本会議を開き、非常戒厳令の解除を要求する決議案を可決。戒厳令は約2時間半で事実上、効力を失った。
尹氏は4日午前4時半ごろ、「憲政秩序を崩壊させる反国家勢力と立ち向かう救国の意志で非常戒厳を宣布したが、国会から戒厳令解除の要求があったため軍を撤収させた」との談話を出し、閣議を開いて正式に戒厳令を解除した。
最大野党「共に民主党」は4日朝、戒厳令が「国民を愚弄(ぐろう)し、民主主義を踏みにじった」と指弾し、尹氏の退陣を要求した。尹氏がこれに応じない場合、「弾劾の手続きに突入する」と宣言した。与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表も戒厳令を激しく非難、尹氏の弾劾を求める世論の声も高まっており、尹氏は政治的に窮地に追い込まれた。聯合ニュースによると、大統領秘書室長を含む大統領府高官らは4日朝、一斉に辞意を表明した。
国会では共に民主党が過半数を占めている。尹氏は戒厳令を宣布した際、その理由として「韓国国会は、立法独裁を通じて国家の司法・行政システムをまひさせ、自由民主主義体制の転覆を企てている」と一方的に批判していた。
国会の委員会では11月下旬、来年度の予算案のうち一部を野党が削減して可決。また、野党は検事らの弾劾を試みているほか、尹氏の妻、金建希(キム・ゴンヒ)氏を巡る数々の問題について国会が任命する特別検察官による捜査を繰り返し要求。尹氏はこうした野党の攻勢にいらだちを募らせ、「非常戒厳」という極端な手法に打って出たとみられる。
しかし、戒厳令に対しては与党代表の韓氏も「間違っており、国民とともに阻止する」と表明。韓国メディアによると、韓国国会が4日未明に開いた本会議で、非常戒厳令の解除を要求する決議案は、出席した与野党190人全員の賛成で可決された。韓国の憲法は、国会の在籍議員の過半数が要求すれば大統領は非常戒厳令を解除しなければならないと規定している。
禹元植議長は採決後、「もう非常戒厳の宣言は無効だ。国民の皆さまはご安心ください。国会は国民と共に民主主義を守る」と述べた。
3日夜、国会の動きを阻止しようと「戒厳司令部」が送ったとみられる兵士らが国会に突入したが、兵士らも議院による採決の動きを止めるにはいたらなかった。国会周辺には多くの市民が集まり、戒厳令の撤回を求めて叫んだほか、兵士らの国会突入を阻止しようと小競り合いになる場面もあった。
韓国メディアによると、戒厳令は1979年10月、当時の朴正熙(パク・チョンヒ)大統領暗殺事件を受けて宣言されて以来、45年ぶり。
共に民主党は声明で、非常戒厳令は正当な手続きなどを踏んでおらず違憲だと批判し、弾劾の要件を満たすと主張している。国会(定数300)で弾劾訴追案を可決するには在籍議員の3分の2以上の賛成が必要となる。
韓国では2016年、親友による国政介入は違憲だとして朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)が弾劾され、その後、失職した。【ソウル福岡静哉、日下部元美】
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