TikTokの売却を迫られているバイトダンスもH-1Bビザの取得を急増させている REUTERS/Dado Ruvic/Illustration
<就労ビザH-1Bを巧みに利用して、アメリカンドリームに憧れる安くて便利な外国の専門人材を大量輸入する米テック企業。TikTokの売却を迫られているバイトダンスも取得数を急増させている>
TikTokの親会社バイトダンスは中国政府とつながりがあり、アメリカの国家安全保障にリスクをもたらす可能性がある――米政府はこう警告しながらも、過去1年で同社の1000人近い従業員に短期ビザを与えている。
H-1Bビザ(有効期間3年、最長6年まで延長可能)は高度なスキルを持つ外国の専門人材が企業雇用主のもと一時的にアメリカに滞在するのを許可するものだが、この制度については批判の声もある。
抽選方式に不正の余地があることや、雇用主、とりわけ大手テック企業が米国内で最も給与の高い仕事の一部を外国人に渡しているという懸念がその理由だ。
このH-1Bプログラムの最大の恩恵を受けているのが、アマゾンやグーグル、メタなどの大手テック企業だ。
2024年度に米企業が取得したH-1Bビザ8万5000件のうち最多の約9200件をアマゾンが占め、インフォシス、コグニザント・テクノロジー・ソリューションズとグーグルもそれに次ぐ多くのビザを取得した。
バイトダンスは2024年の同ビザ取得数上位100社のうちリンクトインの1つ上の34位だったが、米国に呼び寄せる外国人労働者の数を2020年の163人から2024年には997人へと急速に増えている。その大半は中国出身者だ。
米ハワード大学の教授でH-1Bプログラムを研究しているロン・ヒラ教授は本誌に対し、「大手テック企業はH-1Bに大きく依存し、安価で信頼できる労働力の供給源として事実上悪用している」と指摘した。
「彼らは同プログラムの拡大を目指してワシントンで積極的にロビー活動を展開しており、一切の改革に反対している。その方が自分たちにとって得だからだ」
ヒラはさらに続ける。「H-1Bなら従業員の賃金を合法的に低く抑えられる。従業員のビザの申請やビザの管理、ひいては米国内での法的地位の管理も全て雇用主が行うため、雇用主は従業員に対してきわめて大きな交渉力と支配力を持てる」
バイトダンスがビザ取得数を着実に増やすなか、アメリカにおけるTikTokの今後は不透明さを増している。中国共産党がバイトダンスの経営に過度に関与しているという懸念があるためだ。
ジョー・バイデン米大統領はバイトダンスに対して、2025年1月19日まで(次期米大統領が就任する前日まで)に米国事業を売却することを命じているが、ドナルド・トランプ米次期大統領の返り咲きによってこの命令がどうなるのかは不透明だ。
バイトダンスは本誌の問い合わせに対してコメントはしたくないと述べたが、米国務省の報道官はビザ承認にあたっては国家安全保障が最も重視されるとコメントした。
またビザ申請者については引き続き審査を行って米市民への脅威とならないよう確認し、懸念があれば移民当局と共有するとも述べた。
米国事業の売却期限を1月19日に控えるなかでも、バイトダンスは米国内のAI研究チームと技術開発チームの増強を続けている。ほかの大手テック企業と同様、アメリカ市民や在住者よりも、海外の労働者に目を向けている。
シリコンバレーで高度なスキルを持つ労働者のビザを専門に扱う移民問題専門弁護士のソフィー・アルコーンは本誌に対し、雇用主は重要な専門職について、既に米国内にいる労働者では適切な人材を見つけるのが難しいため、海外の候補者に目を向けるのだと説明した。
「国際的で有能な労働者は、アメリカの価値観に同調している者が多く、アメリカンドリームを実現するために懸命に働く。小さい頃から英語のテレビ番組を見てきたからアメリカの文化にも馴染みがあり、中にはアメリカの大学に留学して高度な学位を取得している者もいる」と、彼女は述べた。
昨年はわずか8万5000件の枠に対するビザ申請数が40万件を超えた。現在の抽選方式には企業側から不正をする余地もあり、ハワード大学のヒラは、是非とも改革が必要だと主張する。
「すべてはバランスの問題だ。H-1Bビザ取得の労働者だけでなく米国内の労働者にも配慮する一方、H-1Bビザの取得が厳しくなりすぎないようなプログラムにすることが重要だ」
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