若い世代は将来の課題に向けて準備していると感じるというシャー RONAK SHAH
<米インディアナ州の中等学校で科学を教える教員が味わった無力感と未来への希望>
「先生、移民は全員、強制送還されるんですか」
11月6日の朝、クラスのホームルームで、まず聞かれたのがそれだった。質問した生徒は7年生(日本の中学1年生に相当)で、もともとは中米ホンジュラス出身だ。
緊張感に満ちた米大統領選の翌日のことで、私は複雑な感情を整理し切れず、疲労感も覚えていた。だが生徒には、教師として正しい返答をしなければならない。事実だけを指摘しようと考え、こう答えた。「毎年、移民の一部は送還されているが、大半の人はそうではない」と。
「それなら、どうしてトランプは、私たち全員を送還すると言っているんですか」
私は困惑した。大統領選で勝利したドナルド・トランプ前大統領の、移民の法的地位にかかわらず全員を送還するという投稿を、この生徒はソーシャルメディアで数多く目にしていた。「私たちの国から彼らを追い出せ」というメッセージもあったという。
生徒の精神的成長に多大な影響を与える立場にある教師は、自身の政治的見解をむやみに表明してはならない。同時に、適切な事実と併せて、生徒に考えさせる形で返答する責任もある。
何を言えばいいのか分からなかったし、7年生の気をそらすのは簡単だ。それでも、移民法はとても複雑だと、生徒には話した。
今の時代、あらゆるもの、気象でさえもが政治化されている。許されている範囲で、どう説明するべきか......。
きちんと答える前に、生徒は友人との会話に気を取られた。それを見て、思わず安堵のため息をついた。とはいえ、自分は臆病者だという気がしてならなかった。教師として、期待に応えられなかったという気持ちも。
自分は無力だと感じていた。でも、ならば生徒たちは?
私には、少なくとも一票を投じる力がある。成人として、政権を担う人物を選ぶ過程で声を上げられる。
「子供は未来」は本当だ
一方、生徒たちは自分が選べない人々に統治される立場だ。周囲で政策や政治的主張がつくり上げられ、自分が口にできるもの、利用できるソーシャルメディア、通える学校、医療サービスの在り方が決定されていく。
だが移民送還について話をした直後、教室は笑い声や質問、科学的好奇心でいっぱいになった。生徒たちが夢中になっていたのは、その日の授業のテーマである「地震」だ。
手作りの地震計でシミュレーションの地震の震度を計測したり、建造技術や備えによってダメージを最小化する方法を説明し合ったりしていた。
つまり、彼らは未来に目を向けていた。未来をよりよいものにするため、自分たちにできることを考えていた。
「子供は私たちの未来」という表現は、確かに陳腐だ。だがその言葉の正しさを、ここまで強く感じたことはない。
私たちによって築かれた世界を受け継ぐことを、彼らは成長途中であっても鋭敏に自覚している。世界中で老齢の指導者が誕生するなか、将来に待ち構える課題に向けて準備し、自分たちを鍛えている。
その日、時間がたつにつれて、私は気持ちが明るくなるのを感じた。こんな時代に、若い世代と協力し合えるのは、ありがたいことだと気付いた。複雑な感情は消えなかった。それでも、そこには希望が入り交じっていた。
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