(画像はイメージです) Benny Marty-Shutterstock

<NUKEMAPシミュレーションで浮かび上がる惨状>

ロシアのウラージーミル・プーチン大統領の常套手段である「核の脅し」がこのところ急激に凄みを増し、世界中が危機感を募らせるなか、気になるのはロシアがアメリカの主要都市に核攻撃を加えたらどうなるかだ。

本誌はインターネット上に公開されたNUKEMAPを使って、被害規模をシミュレーションした。

プーチンは今年9月、核兵器使用の前提条件となる核ドクトリンを改定。「航空宇宙兵器の大規模な発射とそれらの国境越えに関する信頼に足る情報を入手したら、核兵器使用の可能性を検討する」と明言した。

ここで言う航空宇宙兵器とは「戦略・戦術爆撃機、巡航ミサイル、ドローン(無人機)、極超音速兵器」などで、「敵が通常兵器を使用して重大な脅威を及ぼす場合も含めて、ロシアは攻撃に対して、核兵器を使用する権利を有する」と、プーチンはドスを利かせた。

NUKEMAPは核兵器専門の科学史家であるスティーブンズ工科大学のアレックス・ウェラースタイン教授が開発したツールだ。

本誌はこれを用いてロシアがR-36M2を使用した場合の被害状況を調べた。R-36M2は史上最大・最強クラスの旧ソ連製の大陸間弾道ミサイル(ICBM)で、NATOではSS-18サタンのコードネームで知られる。最大射程は約1万6000キロ。10個の独立した核弾頭を搭載できるため、核攻撃の威力を最大限に高められるICBMの1つと考えられている。

爆発時に発生する超高温の火の玉に収まる範囲(中心部の黄色い円内)の面積は約39平方キロ。ここでは数百万度もの超高温の熱により、あらゆるものが一瞬にして蒸発する。それを取り巻く濃いグレーの内側の円内は広さ1145平方キロ程で、爆発の衝撃は中心部よりは弱まるが、高層住宅などの建物が倒壊し、大規模な火災が発生すると予想される。

外側の大きなオレンジ色の円内は熱放射が及ぶ範囲で、広さは約6110平方キロ。この範囲にいる人は全て、皮下組織まで及ぶ3度のやけどを負うリスクがある。このやけどでは神経も損傷するため、痛みを感じないことが多いが、深い傷跡が残り、切断手術が必要になって、手足が不自由になる場合もある。

一番外側の薄いグレーの円内は広さ約9040平方キロ。爆発時の損害は比較的軽微で済むが、窓ガラスが破損するなどして、負傷者が出るとみられる。

本誌はこれについて米国防総省とロシア国防省にメールでコメントを求めている。

このシミュレーションでは、首都ワシントンなどアメリカの主要都市の上空で2万キロトンの核爆弾が爆発した場合の死傷者数を試算した。上空での爆発を想定したのは、核戦争などによる人類滅亡までの残り時間を示す「終末時計」を発表している「原子力科学者会報」が、都市に対する核攻撃では地上爆発型よりも空中爆発型が使われる確率が高いと述べているからだ。

■首都ワシントン

アメリカの首都が核攻撃を受けた場合、24時間どの時間帯であれ、核爆発の影響を受ける4つの円内全体に607万7683人がいて、うち163万8140人が爆発直後に死亡、202万9390人が負傷する。連邦議会議事堂や最高裁判所があるキャピトル・ヒルは、超高温の火の玉の範囲内にあるため、完全に消滅する。

■ニューヨーク

4つの円内には1625万858人がいて、爆発直後に推定545万8130人が死亡、560万1470人が負傷する。比較的軽微な損害が予想される圏内には、ニュージャージー州ニューブランズウィックやコネティカット州スタンフォードも含まれる。

■ロサンゼルス

4つの円内には平均して常時1209万2715人がいて、爆発直後におよそ275万8790人が死亡、436万9390人が負傷する。熱放射が及ぶ範囲には、近郊のサンタモニカやカラバサス、ロング・ビーチ、それにポモナの一部も含まれる。

ウクライナ戦争の長期化で、アメリカ主導のNATOとロシアの対立が深まるなか、このところ核戦争の可能性がにわかに現実味を帯び、議論が活発化している。

プーチンは11月19日、核兵器の使用基準を大幅に引き下げた改訂版の「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)を承認した。

「ロシア連邦及び(または)その同盟国に対する攻撃には、必然的に報復が伴う」ことを、核抑止により「潜在的な敵対勢力に理解させる」必要があることを強調する。

ウクライナは先週初めて、アメリカが供与したM39陸軍戦術ミサイル(ATACMS)をロシア領内に向けて発射した。来年1月に退任を控えるジョー・バイデン米大統領がこの長距離ミサイルをロシア領内への攻撃に使用することを許可したためだ。

バイデン政権は、ロシアが数千人もの北朝鮮兵士をクルスク州の前線に派遣したことについて、紛争の大幅な激化につながるとして警戒感を示していた。

ロシアの前大統領で、現在はロシア安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは11月26日、メッセージアプリのテレグラムに、アメリカはウクライナの首都「キーウに核兵器を移管した場合の影響を真剣に議論している」と投稿した。

本誌の問い合わせに対して、米政府は「ウクライナを核武装させる考えはない」と述べ、これをきっぱりと否定した。


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