デービス(右)と夫は開店直後のバーをハリケーンで失った SEAN SZITAS

<へリーンの直撃で壊滅的な被害を受けたけれど、友人たちの支援が生活と再建を支えてくれている>

9月末にアメリカ南東部を襲ったハリケーン「ヘリーン」で、私は1カ月前に開業したばかりの大切な店を失った。夫のデービー・ロバーツとこの店を切り盛りした日々は、いま思えば夢のようだ。

店は「デートリップ(DayTrip)」という1970年代イメージのバーで、ノースカロライナ州アッシュビルにある。目指したのは誰でも歓迎される気楽なバーであり、地元の集会所のような場所。半年かけて計画を練り、19万ドル近くの資金を投じてオープンにこぎ着けた。地元では数少ないLGBTQ(性的少数者)の経営する店でもあった。


ハリケーンが近づいていると聞いて、豪雨は覚悟していた。だがアッシュビルのある山あいの地域がこれほどの被害に遭うとは予想外だった。

へリーンの直撃を受ける直前、床上浸水した店内を歩くデービーの動画を私はインスタグラムに上げた。デービーは「このくらいのお湿りは必要だ」と軽口をたたいていた。だがその日の晩、私たちは離れた場所にある自宅から、店がへリーンによって破壊されていくさまを、セキュリティーカメラの映像でなすすべもなく見守ることになった。

近所の人がドローンを飛ばし、建物の上から写真を撮ってくれてようやく、被害の規模が見えてきた。建物は2階まで水浸しになっていた。

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水が引いて店に行けるようになったのは数日後。町の至る所で電柱が倒れ、家々の屋根には倒木がかぶさっていた。絡み合った電線が道路を覆い、どこもかしこも停電していた。悲惨な被害状況には暗たんたる気持ちになる。断水している地域も多く、トイレを流すためにバケツで川の水をくんでいる人々もいる。信じられない光景だ。

それでも前向きであろうと私は努めている。命は助かったし、自宅もペットも無事だったのだから。


とはいえ、店のオープン費用の19万ドルの借金をはじめ、日常の買い物や光熱費で限度額いっぱいまで使ったクレジットカードの引き落としに加え、直前には車が壊れて買い替えていたため、その支払いも私たちの肩にのしかかっている。収入の道が断たれたというのに。

人生の新たな章が始まる

だが、アメリカ人の美徳そのものの精神で、友人たちが私たちを支援してくれている。

友人の1人は店の再建資金のためにクラウドファンディングを立ち上げてくれた。既に当初の目標額の18万ドルを上回る額が集まっている。当座の費用を賄えるようにと、送金アプリを通して支援してくれた人たちもいる。これまで経験したことのない温かく手厚い支援に、人間っていいものだと思えるようになった。

店を始めるときに設計を手伝ってくれた知人2人は、当面は仕事を休んで被災者を支援するという。移動式シャワーの設置や被害に遭った店の片付けのほか、道路が寸断されて孤立した人々に空から物資を届けている。

ノースカロライナ州西部の多くの人々にとって、へリーンは望ましくはないけれど新たな人生の一章となった。そして喪失と復興のドラマの中で、LGBTQのコミュニティーとは、性的多様性の素晴らしさをたたえるための場所というだけにとどまらないことも分かった。

デートリップは決して終わっていない。再建し、再オープンし、もっと強くなって戻ってくる。

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