激戦州アリゾナで開いた選挙集会に現れたトランプ(6月) USA TODAY NETWORK via Reuters Connect

<政権移行期に誰から資金を調達し何に使うかを明らかにし、閣僚に指名した人物は捜査機関の調査に協力する──歴代政権が署名・提出してきた重要な了解覚書(MOU)に、トランプはまだ署名していない。このままでは、アメリカが巨大な腐敗国家になる>

ドナルド・トランプ米次期大統領が正式な政権移行手続きの開始に必要な法的文書に署名をしていないことに、民主党や反トランプ派から怒りの声が上がっている。

一般に大統領選の候補者は投票日前の9月か10月までに、GSA(連邦調達局)やホワイトハウス、司法省などと了解覚書(MOU)を交わす。次期政権が現政権と協力して、施設利用などに関して規則に従った手順で政権移行プロセスを進め、FBIが国家安全保障に携わる役職に指名された人物の審査を行うことを認める書類だ。

トランプは次期政権の主要ポストの指名をほぼ終えているが、一部のポストについては連邦議会上院での承認手続きが必要になるが、MOUへの署名が遅れれば、上院議員たちはFBIによる身元調査が行われないまま主要ポストの候補者についての審査を行わなければならなくなる可能性があると、AP通信は伝えている。

たとえば、元FOXニュース司会者で次期国防長官候補のピート・ヘグセスやかつては民主党の下院議員だった国家情報長官候補のタルシ・ギャバードらについては、既に懸念の声が上がっている。

ヘグセスは2017年に性的暴行疑惑で捜査を受けており(訴追はされておらず本人は疑惑を否定)、ギャバードはロシアのプロパガンダ拡散やシリアのバシャル・アサド大統領との面会歴をめぐって批判を受けている。

MOUには政権移行のための資金集めの目標額、一件当たりの寄付の上限、連邦政府から受け取る助成金の額、利益相反を避けるために資金提供者を公開する項目も含まれており、トランプがこれに署名しないということは、政権移行プロセスの資金提供者や金額を公開しないことを意味する。

反トランプの共和党員から成るグループ「リパブリカンズ・アゲンスト・トランプ(トランプに反対の共和党員)」はX(旧ツイッター)への投稿でトランプを「アメリカ史上最も腐敗した大統領」と称し、トランプの政権移行チームが「秘密の資金」で運営されているとした11月24日付のニューヨーク・タイムズ紙の見出しを共有。

「トランプは政権移行に必要な倫理規定書にまだ署名していない。これにより彼は未確認の献金者から人件費や交通費、事務所スペースの確保に必要な資金を無制限に調達することができる」と引用した。ちなみに、第一期トランプ政権への移行期だった2016年にはトランプも署名を行い情報開示を行なっている。

民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)は先日、政権移行プロセスを監視するGSA宛てに書簡を送付。トランプはMOUに署名しないことで「国家安全保障上の緊急事態、公衆衛生や安全保障に関する差し迫った脅威や腐敗のリスクに効果的に対処する能力を自ら損なっている」と主張した。

「現政権との間の合意書に署名することを拒むというトランプの政権移行チームの前例のない姿勢は、次期政権の当局者らが責任を持って統治を行う能力を弱体化させ、米国民を脅かすことになる」

ウォーレンは11月11日の投稿の中でも、トランプは2019年政権移行改善法の下で義務づけられている書類の提出を行っていないことで「既に法に違反している」と非難していた。

上院軍事委員会の上級メンバーである民主党のティム・ケイン上院議員(バージニア州選出)はウェブメディア「ポリティコ」に対し、「(FBIによる)適切な調査が行われなけれない限り」、上院はトランプが指名した閣僚候補の承認手続きを進めないだろうと述べた。

トランプに批判的な弁護士のアーロン・パーナスはXへの投稿の中で、「ドナルド・トランプのチームが政権移行改善法の下で提出を義務づけられている重要な文書に署名しないことで連邦法を回避し続けていることを、人々はもっと糾弾すべきだ」と主張した。

一方、トランプの政権移行チームのブライアン・ヒューズ報道官は、過去に複数の報道機関に宛てた声明の中で、トランプの弁護団が「政権移行改善法の下で求められている全ての合意について、ジョー・バイデン現政権の弁護団と建設的な協力を進めている」と述べた。

ニューヨークにあるジョン・ジェイ・カレッジで政権移行について研究しているヒース・ブラウン教授はニューヨーク・タイムズに対し、トランプが政権移行プロセスの資金提供者を公開していないことへの懸念を語った。

「資金源についての情報が公開されていないと、誰がどれだけの資金を提供しているのか、それらの資金提供者がどのような見返りを手にしているのかが分からない」とブラウンは言う。「誰がその資金を出しているのかを知りたい、というのは米市民の大多数に共通の思いだ」

MOUの署名・提出を行っていないことは、トランプ次期政権がこれまでのところ、新政権樹立に向けてどの連邦政府機関とも面会を果たしていないことを意味する。

ジョージ・W・ブッシュ元政権でホワイトハウスの倫理担当主任弁護士を務めたリチャード・ペインターは、トランプの政権移行チームが所定の書類に署名するまで、トランプが指名した閣僚候補は正式に連邦政府の職員になることはできないと指摘する。

「そうでなければ、彼らは何でも好きなようにできてしまう。利益相反も好き放題だ。外国政府から資金を受け取っている可能性だってある」とペインターはポリティコに述べた。

ペインターはさらに、こう付け加えた。トランプと彼の政権移行チームは「自分たちを選んだ国民に対して、富裕層のためではなく国のために働いているのだと納得させる必要がある」

「MOUに署名しないということは、トランプに投票した労働者すべてに対して『ありがとう。さあ失せろ』と言っているようなものだ」

AP通信は、トランプの政権移行チームによる必要書類への署名は「まだ間に合う」と伝えている。

トランプは2025年1月20日に大統領に就任すれば、主要ポストの候補者に対して、身元調査の結果に関係なく機密情報へのアクセスを認める権限を持つことになる。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。