批判を受けて来年1月にカンタベリー大主教を辞任するジャスティン・ウェルビー Luke MacGregor-REUTERS

<同性愛者を毛嫌いしながら、裸で青少年を虐待していた教会関係者(故人)。英国国教会の最高位、カンタベリー大主教が辞意を表明した。事件への対応を誤った理由とは...>

英国国教会の最高位であるカンタベリー大主教の職務は、常にリスクが付きまとう。現代ではさすがに清教徒に斬首されたり、火あぶりにされたりはしない。だが英国国教会は同じ流れをくむ聖公会を含めると、約8500万人の信徒がいる世界第3のキリスト教教会。その指導者に試練が多いことに変わりはない。

11月12日に辞意を表明したカンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビーは、それをよく知っている。辞意を示した理由は、教会関係者による性的虐待事件をめぐり、教会側の対応を検証する委員会の最終報告書が出たことだ。


加害者のジョン・スマイス(故人)は弁護士で、キリスト教のサマーキャンプ運営団体の著名な指導者だった。彼は同性愛者を毛嫌いし、1976年には同性愛者コミュニティーを支えていたゲイ・ニュース誌を「神への冒瀆」の罪で起訴に持ち込んだ。

だが、私生活ではセックスに執着。時には自ら裸になって青少年をサディスティックに殴る虐待を繰り返しては、彼らの精神を鍛えるためだと言い放っていた。

ウェルビーはスマイスを知っていたが、虐待については知らなかったと言う。検証委員会はこれを疑問視している。

スマイス事件は、現代の英国国教会が抱える矛盾の核心を突くものだ。教会は大きな危機を迎え、次席聖職者のヨーク大主教がカンタベリー大主教の役割の改革を求める事態に発展している。

同性愛への姿勢で分裂

英国国教会では90年代に性的虐待事件が相次いで明るみに出たことから、徐々に対策を講じてきた。2013年に大主教に就任したウェルビーは、信徒の結束を高めようとした。だが、道は険しかった。

その一因は、英国国教会の抱える信徒が実に多様であることだ。アングロ・カトリックの儀式・行事から福音派的な説教まで、幅広く執り行っている。さらに英国国教会から派生した聖公会は、パプアニューギニアから米ボストンまで地理的にも大きな広がりを持つ。


従来の聖公会には、同性愛者の司祭や信徒を受け入れる寛容さがあった。アメリカの聖公会は以前から性的少数者の権利を支持し、2015年に全米で同性婚が合法化されてからは同性婚式も執り行ってきた。一方で世界の信徒の過半数を抱えるアフリカの聖公会は、概して同性愛に強硬な姿勢を取っている。

このなかで英国国教会は、どっちつかずの姿勢しか取れずにいた。同性婚式は行わないが限定的に祝福し、同性愛者の聖職者も容認している。

ウェルビーは、伝統を保持しつつも、硬直した保守主義には陥らない「開かれた福音主義者」を自任してきた。だが大主教就任後の10年余りで礼拝の参列者数は約30%減り、コロナ禍での教会閉鎖は強い批判を招いた。

ウェルビーの後継者を選ぶのは、名目上は国王だ。だが実際には、まず世界中の聖公会の代表から成る委員会が2人の候補を挙げ、首相がそのうち1人を国王に推挙する。

スマイス事件と無関係な候補を選ぶなら、合意に時間がかかるかもしれない。だが誰が選ばれても、カンタベリー大主教の職務がリスクだらけであることに変わりはない。


From Foreign Policy Magazine

【動画】ジョン・スマイスの息子(初期の虐待犠牲者でもある)が英メディアの取材に応じた

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