昨年4月に北京を訪問したときのイーロン・マスク(左)。テスラ社のEV生産台数の半分は上海のギガファクトリーが担っている はReuters TV/via REUTERS BEST QUALITY AVAILABLE

<米中国交正常化の仲介役となったキッシンジャーのような役割を期待する声もあるが、実業家として利益だけが目当てと思われる節もある>

アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席は11月16日、アジア太平洋経済フォーラム(APEC)首脳会議に出席するため訪問中のペルーの首都リマで首脳会談を行った。バイデンと習の直接対談はこれが最後となるとみられる。

ドナルド・トランプ次期大統領が実業家のイーロン・マスクを閣僚に指名したことで、次期政権は複雑な「事情」を抱えることとなった。今後の米中関係も見通しにくい状況だ。

習は慎重な言葉選びで、トランプにはあえて言及せずに外交の継続性を求める中国政府の希望を強調した。「中国はアメリカの新政権と協力して対話を維持し、協力を拡大し、違いに対処し、両国民の利益のための中米関係の堅実な移行に向けた努力を行う用意がある」と、習は通訳を通して述べた。

電気自動車大手テスラのCEOであり、トランプの選挙運動に数千万ドルの寄付を行ったマスクは、実業家のビベック・ラマスワミとともに新設される予定の「政府効率化省」を率いることになっている。

新政権の内部では、対中政策に関して意見の激しい相違が見られる。トランプは対中タカ派のマルコ・ルビオ上院議員とマイク・ウォルツ下院議員を、それぞれ国務長官と大統領補佐官(国家安全保障担当)に指名した。トランプは中国からの輸入品に60%の関税をかけ、メキシコで製造された中国メーカーの電気自動車に制裁措置を取ると主張。

9月には8000億ドルの対中貿易赤字に触れ、「関税は最も偉大な発明品だ」と述べてもいる。

一方でテスラにとって、上海のギガファクトリーは生産台数の半分を担うドル箱であり、マスクの対中姿勢はトランプとは大きく異なる。

「テスラとしても私としても、こうした関税を求めたことはない」と、マスクはパリで行われた技術系イベントで述べた。「通商の自由を阻害、もしくは市場をゆがめるものはよくない。テスラは中国市場における競争で、関税や政府の支援がなくともおおいに善戦している。私は関税なしを支持する」

マスクは以前から、中国政府との友好的な関係を維持してきた。2020年にポッドキャストで「中国はすばらしい」とほめたたえ、中国共産党の創立100周年を祝って以降、彼は一貫して中国当局に従順な態度を示している。

2021年に中国当局がテスラに対し、28万5000台の自動車のリコールを求めた時も素直に応じたし、2022年に新型コロナウイルスのパンデミックでテスラの上海工場が閉鎖された際もおとなしく従った。カリフォルニア州で同じような流行対策が採られた際に「ファシスト」的だと激しく非難したのとは対照的だ。

米中間の問題は貿易に留まらない。アメリカの情報当局は、ウクライナ侵攻を続けるロシアにとって必要なハイテク製品について、中国からの輸入が増えているとの報告書を出している。

FBIは先ごろ、アメリカ政府やアメリカの政治家に対して中国が行っている「幅広く大規模な」サイバースパイ行為に関する詳細を明らかにした。

昨年、中国の偵察用気球がアメリカ領内で撃ち落とされた一件で、両国の緊張はさらに高まった。

一部の専門家からは、マスクがかつてのヘンリー・キッシンジャー国務長官に似た外交における仲介者の役割を果たす可能性があると指摘する声も出ている。

今年4月、マスクは中国の李強首相と会談。李はテスラを、米中の通商協力の成功例だと持ち上げた。

今回の米中首脳会談は、半世紀以上にわたる政治家生活に終止符を打とうとしているバイデンにとっては特に重要なものとなった。

「過去4年間、中米関係は山あり谷ありだった。だが、両国のかじ取り役である私たち2人は実りある対話と協力を行ってきたし、だいたいにおいて安定を実現してきた」と、会談でバイデンは振り返った。

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