医療や健康の分野を中心に数々の陰謀論を唱えてきたケネディ JAY JANNERーUSA TODAY NETWORKーREUTERS
<名門ケネディ家の出とは思えない筋金入りの陰謀論者。とりわけ新型コロナワクチン陰謀論など医療関係のデマが多いケネディを保健福祉長官に就けたトランプの責任は重い>
トランプ次期大統領が11月14日、ロバート・ケネディJr.を保健福祉長官に起用すると発表した。トランプは6日の大統領選勝利演説でも既に、ケネディが「アメリカを再び健康にする」と述べていた。
本当に人々の健康は改善するのか。ケネディは、筋金入りの陰謀論者として知られている人物だ。1963年に伯父のジョン・F・ケネディ大統領(当時)を暗殺したのはCIAだと主張するなどしてきたが、最も活発に訴えているのが医療関連の陰謀論だ。
現時点でワクチン接種を禁止する方針は打ち出していないが、新型コロナワクチンやその他のワクチン全般の安全性を疑うなど、陰謀論的な発言を繰り返してきた。
大統領選直前には、新政権で水道水へのフッ素(ムシ歯予防効果がある)の添加を取りやめるよう勧告したいと述べていた。陰謀論者たちは、フッ素が健康に悪影響を及ぼすと主張し続けている。
トランプ自身は、ワクチンやフッ素について公的に発言していない。おそらく大統領選でケネディの支持を得たかっただけで、アメリカ国民の健康には大して関心がないのだろう(ケネディは大統領選に無所属で出馬していたが、8月に撤退してトランプ支持に回った)。
大統領といえども全てを好き勝手に決める権限はない。国民のワクチン接種が阻まれたり、水道水へのフッ素の添加が禁止されたりすることはないだろう。それでも、ケネディの保健福祉長官就任は、アメリカ政府で客観的事実に基づいた意思決定がさらにないがしろにされることを意味する。
ケネディは、これまでさまざまな陰謀論を唱えてきた。一握りの大富豪が製薬会社と結託して、アメリカ国民をコントロールしようとしているという考え方を広めている。また、ワクチンが子供の自閉症に関連していると本気で信じていて、Wi-Fiが癌を引き起こす可能性があると根拠もなく決め付けている。
新型コロナワクチンをめぐる虚偽情報の拡散に関しては、トランプのさらに上を行く。新型コロナワクチンにより何百人もが死亡したと主張。アメリカの新型コロナ対策を主導したアンソニー・ファウチ元首席医療顧問を「欧米の民主政治に対する歴史的なクーデターの黒幕」と呼び、彼を刑事裁判にかけるべきだとも述べている。
荒唐無稽な主張はこれだけにとどまらない。起業家で大富豪のビル・ゲイツが新型コロナワクチンにより人々の体にマイクロチップを埋め込み、人々の行動を追跡しようと企てているとか、新型コロナが白人や黒人など「特定の民族を攻撃」して、東欧系ユダヤ人と中国人を救うための「生物兵器」であるとも示唆してきた。
医学の分野での陰謀論は時に大きな危険をもたらす。2019年には南太平洋のサモアではしかが流行し、子供を中心に83人の命が失われた。ケネディにたきつけられた反ワクチン派の活動により、ワクチン接種率が低下した影響があったことは間違いない。
ケネディは、医学界が長年の研究と膨大なデータにより到達した結論を否定しようとする。トランプがそのような陰謀論者を政府の要職に就けたことの意味は重い。
第2次トランプ政権の誕生は、個別の政策の変更だけでなく、人々の心に疑念を植え付け、混乱をあおることによっても社会に大きな脅威を及ぼすのかもしれない。
©2024 The Slate Group
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。