自身の絵について説明する脱北者の画家、安脩敏さん=ソウルで2024年6月13日午後6時54分、日下部元美撮影

 「北朝鮮の芸術は芸術とは言えない」。脱北者で画家の呉成哲(オソンチョル)さん(46)と安脩敏(アンスミン)さん(29)は6月、ソウル外信記者クラブの記者会見でこう述べた。

 呉さんは北朝鮮で2003年まで約10年間、軍の服務として扇動宣伝の部署で朝鮮労働党や体制を宣伝する絵を描いていた。安さんは呉さんと同じく宣伝画を描く仕事についていた父の影響で、北朝鮮の国立芸術アカデミーのような機関に通っていた。

 芸術の定義は多様だ。北朝鮮芸術の研究者には、北朝鮮の芸術はプロパガンダだけではなく、その中に独自の美学を発展させてきたと主張する人もいる。だが、呉さんは「発展してきた部分もあるが、北朝鮮の芸術には『自由な思惟(しい)』がない。国が認めていない」と指摘。「権力の道具となっている」と批判した。安さんは北朝鮮と韓国の芸術の概念は「全く違う」とし、呉さん同様、北朝鮮の絵画などは自身の芸術の定義に入らないとした。

もう一人の脱北者の画家、呉成哲さんも自身の絵に込めた思いを語った=ソウルで2024年6月13日午後7時1分、日下部元美撮影

 2人の絵のコンセプトは大きく異なる。呉さんは韓国で人文学、哲学、心理学など「人間の基本的なもの」を学んだといい、食欲を解消する道具であるスプーンをモチーフに人間の欲望を掘り下げる。学ぶ自由を獲得し、考えを表現できる「幸せが感じられる主題でもある」と説明する。

 一方、スプーンは韓国では社会階級を表す表現にも使用される。画面いっぱいに張り付いたスプーンは、資本主義のとどまることを知らない欲望に対する示唆も感じさせた。

 安さんは、淡いピンクや黄色など温かい色で家を描いた作品が多い。行くことのできない故郷への恋しさや懐かしさが表れている。安さんは「北朝鮮に懐かしさを感じることと、政治的なことはまた別だ」と言う。故郷には良くしてくれる近所の人や友だちがいた。「夢で北朝鮮の家に何度も帰るんです。問題があっても私の故郷。この帰りたいとの思いは、人間の基本的な感情だと思う」と説明した。

 2人が韓国で感じていることは、北朝鮮で生きたことのある人にしか本当の意味で理解することはできないだろう。ただ、朝鮮半島で仕事をする一人として、彼らの絵や言葉からできるだけ想像力を広げる必要があると感じた。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。